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クロス・ザ・ルビコン  作者: 軽沢 えのき
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まずはがむしゃらに動こう

 悠斗はガレージにたどり着くと、緊急用ゲートの前に立つ。


 これは有事の際に、エレベーターにコマンド入力している暇がない時に用いるものだ。


 悠斗は指紋認証を行い、ゲートを開ける。


「俺は祐奈さん達と合流するよ! 気を付けてな!」


「あいよ!」


 悠斗は緊急用ゲートに入る。


 まるで宇宙空間のような世界が広がっているが、これは魔法使いたちの魔法によって形成されている。


 魔法は魔法陣を描くことでも発動できる。


 特殊な粒子が無ければ魔法は作動できないが、ポータル粒子で代用が利くのだ。


 その空間の中心にはテンキーがぽつんと置かれていて、悠斗はそれを見て、自分のガレージの番号を入力する。


 すると、目の前にワームホールが現れ、悠斗はそれに入る。


 ワームホールを抜けた先には、自分のガレージが広がっていた。


 置いてきたばかりの機体が、ただひっそりと佇んでいた。


「悪いな、無茶をさせる」


 悠斗はコクピットに飛び乗り、起動する。


 それに呼応するように、天井が開き、悠斗は機体を操作する。


 ぬるりと垂直になった機体、ブロードソードは、開いた天井目掛けて飛翔する。


 気が付けば、青空の広がる空中へと顔を出したブロードソードは、一旦人型に変形し、周囲を捜索するように浮遊する。


 悠斗はタッチパネルを操作し、ある人物と通信を図る。


 村正重工の社長だ。


「おやおや悠斗さん、本日はいかがなされたのですか?」


 男の声が聞こえてくる。


 彼こそが、村正重工の社長、昭仁(あきひと)だ。


「社長、アンタに頼みたいことがある」


「なんでしょう?」


「実はいま知人が攫われてるんだ。Aデバイスに乗ったはいいんだが、何を探しゃいいのかまるで見当がつかない。なにかアイデアはない?」


「ふむ……それは実に困りましたね……」


 パネルのモニターには、腕組をして、顎に手を当て考えている男の姿が見える。


「……そういえば、先日廃墟都市に連合側の方角から不法侵入があったと耳にしました。それかもしれません」


「それは車か何かで入ってきた?」


「話によれば、トレーラーと数台の車だそうです。今衛生でスキャンをしています、しばしお待ちを」


 数分、静寂が空を包む。


 ふと、ブロードソードのカメラに高速道路が写る。


 そこには、どう見ても軍用のトレーラーが一台、積み重なった高速道路の中へ入っていく様子が見えた。


 軍用の車両は、基本的には村正重工や一部企業が用いているが、あのカラーリングは見たことがない。


「いま高速道路に入っていくトレーラー、あれいま衛星経由でスキャンしたんですが……未登録車ですね、おそらくあれです」


 返事をせず、悠斗はブロードソードを変形させ、すぐさまトレーラーを追う。


 積み重なった道路の縦幅は余裕があり、戦闘機形態のAデバイスが入るには、幾分余裕のあるサイズだった。


 それでも、外装はサビていたり、ひび割れがあったりと、やはり廃墟のような様相を呈している。


「あれか!」


 悠斗はサヴェージを起動し、トレーラーの貨物部分に体当たりさせる。


 純粋なエネルギーの塊であるサヴェージが当たった部分は消えて、中に閉じ込められていたAデバイスが顔を出す。


 Aデバイスは変形し、ブロードソードを羽交い絞めにする。


「ちっ!」


「あ、いくつも未登録の車両が出てきました」


 殺し合いの最中に、昭仁の腑抜けた声が聞こえてくる。


「そのデータ寄こして! みんなに送るから!」


 ブロードソードと敵Aデバイスは積み重なった地帯から抜け出し、下道に落ちる。


 敵Aデバイスをクッションにして、公園に落下し、受け身をとる。


「きゃああああっ!」


「なんだなんだ!? 何が起きてるっていうんだ!?」


 散歩中のカップルは慌てつつも、至極冷静にその場から離れる。


 池へと落下したため、ブロードソードの全身から水滴が滴り落ち、動くたびに水面が揺れ動く。


 敵Aデバイスは巨大な斧を取り出し、赤熱化させた刀身をブロードソードにむける。


『敵Aデバイスを確認、TBR-009HE「ファイアーソード」です』


 アナウンスが流れる。


 じりじりと距離を詰めるファイアーソードに対し、悠斗の駆るブロードソードはゆったりと横へ動いていく。


 その間に、悠斗は武弘たちにデータを送る。


 ファイアーソードはその場で立ち止まり、目の前にサヴェージを固定、殲滅砲のチャージに入る。


「市街地でぶっ放す気か!?」


 流石の悠斗もこれには面くらった。


 殲滅砲とは、簡単に威力を説明するならば、五階建てのビル程度なら一撃で消し炭にできる程の能力を持っているのだ。


 それを市街地で放とうものなら、Aデバイスが肉弾戦をしているよりも遥かに危険だ。


 Aデバイス同士の肉弾戦は古来から行われてきたので、皆それによって出てしまう被害は致し方ないと割り切れるのが一般的だ。


 しかし殲滅砲は、元々は外宇宙生命体用に開発された決戦兵器、そんなもの、街中でぶっ放す方がおかしいのだ。


 以外にもチャージが早く、気が付けば発射していた。


 しかも、ファイアーソードの殲滅砲は、対象に着弾すると爆発するようになっている。


 つまりこれはどういうことか。


 まともに食らえば、Aデバイス特有のガチガチの防御力でも致命傷は免れず、避ければ後ろに広がる都市が大災害を被る。


「こうなりゃこうさ!」


 だが、悠斗ならば心配はない。


 何故なら、彼はAデバイス経由で魔法を用いれるのだ。


 Aデバイスを魔法の杖と同じように、触媒として利用することで、魔法を操れるという寸法だ。


 魔法陣を展開し、殲滅砲のエネルギーを吸収する。


 エネルギーを大部分は吸収できたが、それでも吸いきれなかったエネルギーが、爆発を引き起こす。


 煙と水蒸気が視界を奪い、そこからファイアーソードが斧を振り下ろす。


 前腕部を掴み、振り下ろすのを阻止した後、右手をファイアーソードの顔面に叩きつける。


「鬼畜外道以下の行いをした報いは受けてもらうぞ!」


 体勢を崩したファイアーソードの腹部に、ヤクザキックをぶち込む。


 ファイアーソードは大きく吹き飛び、公園のグラウンドに転がる。


 ブロードソードは池から岩を一つ持ってきて、両手で保持し、ファイアーソードの胴体に力いっぱい投げ落とす。


 そのせいで上半身はぺちゃんこになり、下半身だけがモゾモゾと動いている。


 ブロードソードのマニピュレーターが、股間のコクピットを鷲掴みにし、引きちぎる。


「……」


 悠斗はタッチパネルを操作し、昭仁に連絡を取る。


「どういたしましたか?」


「あー、さっきトレーラーから出てきたAデバイスのパイロットをコクピットごと手に入れたんだけど……いる?」


「んー、とりあえず、公園の方に警察の方々が来てますので、彼らに任せておけば安泰かと」


 悠斗はブロードソードの頭部を動かし、空を見上げる。


 警察のAデバイスと、魔法使いたちがこちらに向かっていた。


「……こんなすっとこどっこいの相手してる場合じゃない。因幡を見つけなきゃ……」


 悠斗は後悔しつつも、タッチパネルを操作して、不審車両の居場所を確認する。


(俺はあの子に思い入れがあるわけでも、恩があるわけでもない……どうしても、守らなきゃいけないって思うんだ)


 機体を変形させ、スラスターを点火する。


(これはあれなのか……恋ってやつなのか? なんかざわざわする……)


 空へと飛翔し、目標へ向かう最中、悠斗は自分の胸のあたりを掴む。


(碌に恋なんてしたことねえから分かんねえ……)


 そう思いながら、機体を操作するのであった。


 




 それを、ビルの上から眺める人物が二人いた。


「悠斗君ったら、あの女の子を救い出すためにあんなに動くだなんて、半日の間に何があったのかしら」


 女性が呟く。


「さぁな。だが、アイツはそういう男だ。幼少を見ていれば分かる」 


「……それもそうね。あの子は、いつもどこかで他人を守ろうとしてる」


「……まぁ、それに刺客を吹っ掛ける俺たちは、史上最悪の義両親だろうな」


 男が、顔を手で覆う。


「彼らにあの女の子の居場所をリークしたのは私たち。その侵入者たちを村正重工にリークをしたのも私たち……」


「そして、連合から彼女を奪い、彼にあの少女を送ったのも俺たち……」


 2人はブロードソードの機影を目で追いながら、ぼそぼそと喋りつづける。


「……最低だな」


「最低ね。でも、そういう仕事なんだもの」


 2人は鼻で笑いあい、その場から立ち去る。


「例のシステムの作成のために必要なことだからな。まずは、否が応でも是が非でも、アイツらを結び付けねばならない」


「まぁ、せいぜい彼らの活躍を見定めることとしましょう……彼が、本当に成功例なのかどうか」


 不穏な言葉を残し、その場から立ち去る2人。


 男は魔法陣をくぐりぬけ、どこかへと消える。


 女は、みたこともない派手な色のAデバイスに乗り込み、その場を立ち去った。

 こんにちは。軽沢えのきです。

なんだか不穏な人々が出てきましたね、一体だれなのやら……

戦闘描写になると筆がスラスラ進むのなんでなんですかね。もうちょっと日常を上手に描ければ万々歳なんですけど。

それでは、また。


設定紹介

ポータル粒子

Aデバイス、並びに魔法使いたちが魔法を使う際に用いる特殊な粒子。

重金属粒子の一種であり、一定まで圧縮すると崩壊し、エネルギーをまき散らす。

主だった能力としては、以下の通りである。

・空気抵抗を極限まで減らす。

・重力、質量操作を行える。

・ありとあらゆる物質に変換できる。

・一定まで圧縮すると崩壊して莫大なエネルギーを引き出す。


Aデバイスはこれを全身に薄い膜として張ることで、翼がないにもかかわらず飛行が可能であり、タイムラグなしでの方向転換や後退が行える。

なお、魔法使いたちはこの粒子を肺で生成できる。


サヴェージ

Aデバイスの標準武装。

巨大なエネルギーの塊であり、外宇宙生命体「ポータル」の細胞を培養し、数本のコントロール用パネルで制御している。

簡単に言うと、それそのものが永久機関のような代物であり、体当たりは発電所で殴っているのと同じようなものである。

ポータルの細胞は非常にデリケートな扱いを求められるため、村正重工が一括して培養、生産している。

機体によってコントロール用パネルの形状が異なるのが特徴的。中には特殊な能力を持ったタイプもある。



登場人物

村正昭仁

村正重工の社長、年齢不詳。

物腰柔らかであり、考え方も石頭ではなく、柔軟な思考の持ち主として有名。

柔軟すぎて、TBR-009GP(パイルバンカー搭載機)は彼の発案だという。

そのほか、優秀な商品や、余りにもとがり過ぎてニッチすぎる商品にゴーサインを出しているのも彼。



登場機体

TBR-009HE

「爆発兵装専用機」

開発コードは「ファイアーソード」。

着弾と同時に爆発する、特殊な殲滅砲を搭載した機体。

殲滅砲のエネルギー限界値検証用機体として開発された。

また、特殊なエネルギーから生じる熱気はすさまじいため、ラジエーター類と排熱効率は群を抜くほど高い。


殲滅砲:HEAT殲滅砲

サヴェージ:フィーバー・サヴェージ

近接兵装:ヒートアックス


?????

謎の女性が搭乗した機体。

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