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クロス・ザ・ルビコン  作者: 軽沢 えのき
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眠気の覚める出来事

 朝の9時、悠斗は眠たそうな顔でタブレットを眺めていた。


 今回の作戦の報酬、回収したカレトヴルッフの腕をばらしたことで得たボーナス、修理費等の経費などが書かれていた。


 詳細な値段は控えるが、正直17歳が持っていい値段ではない。


 一般的なサラリーマンの年収よりも高い。とだけは言える莫大な値段だった。


 先ほど、Aデバイスはガレージに置いてきて、悠斗はその帰りだ。


 朝9時の平日にも関わらず、電車の中には人一人いない。


 外では魔法使いたちが電柱のメンテナンスをしている姿や、補給機が列車に貨物を置く姿が見られた。


「……」


 悠斗は目をごしごしと拭き、ドアに寄りかかる。


(こんなことなら駅前でコーヒー飲めばよかった……)


 そう思いながら、必死に意識を保っていた。


「間もなく、56区前、56区前。お荷物のお忘れには、ご注意ください」


 アナウンスが入り、悠斗は向かいのドアの前に移動する。


 しばらくすれば、駅に停まり、ドアが開く。


 やっぱり、誰もいない。


 疑問に思った悠斗はスマホを取り出し、時刻を確かめる。


 今日は日曜日だったのだ。そりゃいないな、と呆れながら、悠斗はエスカレーターへ向かう。


 駅のホームで、やたらと高値の自販機へ向かい、電子マネーでコーヒーを買ってから、外に出る。


 外はまばらではあるものの人がおり、タクシー乗り場には、一台だけ暇そうにしているのがいた。


 反対側を見てみると、遠ざかるバスが見えた。どうやら先ほど出発してしまったらしい。


 悠斗の家は駅からはすこし遠い。歩いていける場所ではあるが、眠気とそこそこの疲労がたまっている悠斗には、億劫な距離だった。


 悠斗はタクシーの前まで行き、窓の奥を見つめる。


「……」


 そこにいるのは、すみれ色の瞳をした、知り合いの女性だった。


「おはようございます。仕事帰りですか?」


「そう、武弘が教えてくれてさ。眠くて眠くて……」


「……後ろの座席へ」


 タクシーの後ろのドアが開き、悠斗はなだれ込むかのように乗り込む。


 今にも途切れそうな意識の中で、シートベルトをつける。


「行き先は自宅ですか?」


「お願い……ありがとうね、桐林さん」


「仕事ですので」


 タクシーの運転手、桐林幽香はアクセルを踏み、悠斗の自宅まで走らせる。


「……最近はお仕事が多いようですが、大丈夫ですか?」


 桐林はそう言い、悠斗からの返答を待つ。


 赤信号になったところで、後ろに目線をやると、身体をぐったりさせて寝ていた。


「はぁ……」


 桐林は信号が青になるのを確認すると、アクセルを踏み込み、進む。


 十数分ほどしたら、彼の家に到着する。


 言ってみれば、九龍城砦をそのまま小さくしたような形で、乱雑に増設されていったマンション、とも言えそうな見た目である。


「悠斗さん……悠斗」


「んぇ……?」


「着きましたよ」


 悠斗は伊達眼鏡をかけ直して、スマホを取り出し、会計を済ませる。


「どうでしたか、仕事の方は」


「順調も順調ですよ……ふぁ~あ……はふ」


 悠斗は車を降りて、桐林を見送った後、自室に向かう。


 三階へはエレベーターを使い、扉の前まで向かった。


 鍵を開けると、チェーンがかかっていた。


「……」


 ここで、一気に眠気が覚める。


 言えには誰もいないのに、チェーンをかけられているのは、何がなんでもおかしい。


「大家さん許せよ」


 悠斗はチェーンに指をかざし、指の先端に魔法陣を展開する。


 魔法陣からは熱線が飛び出し、チェーンを瞬く間に消し飛ばした。


 悠斗は玄関を閉めて鍵を閉めた後、土足でリビングに向かい、周囲を見渡す。


「なんだ……何かがおかしい!」


 もしや、と思った悠斗は、因幡の入っていたポッドを置いてある部屋に向かった。


「あっ……」


 ポッドが割れていて、中の液体が回収されている。


 その瞬間、後ろから金属音がする。


 銃の引き金が引かれた音だ。


「!」


 悠斗は振り向きざまに魔法陣を展開し、銃弾を跳ね返す。


 そのまま謎の人間へ猛ダッシュで近寄り、顎に掌底をぶつける。


 人間が倒れると、すかさず、上に飛び乗り、首を絞めつける。


「誰だてめぇ! 何人様の家に入り込んでやがる!」


「ぐっ……!」


 ふと、自分の腕をつかんでいる、相手の腕を見た。


 連合軍の特殊部隊のエンブレムが描かれていた。


 前に戦ったことがあるからわかる。暗殺や奇襲の専門部隊だ。


「……そういうことかよ」


 悠斗は爪を立て、人間の喉を抉る。


「がっ……ごふっ」


「そのきたねえヘモグロビンの液体を吐くんじゃねえ、汚れんだろうが!」


 指の第一関節辺りまで刺し込んだ後、そのまま手前に指を動かす。


 人間の首が抉れ、返り血が悠斗にこびりつき、肉片が宙を舞う。


「……帰ったら掃除しなきゃ」


 悠斗はスマホを取り出し、武弘に電話する。


『悠斗か!?』


「武弘、因幡がいない。どこかわかるか?」


 その瞬間、外から何かが飛んでくる音がした。


 悠斗は部屋を出て、音のした、向かいの部屋である畳の部屋に向かう。


 窓の向こうには、武弘の機体が浮いていた。


 コクピットが開き、武弘が顔を出す。


「何が起きた!?」


「因幡が連れ去られた! 祐奈さん家で朝トイレに行くって言ったきり戻ってこねえもんだから確認したんだ! 窓が開いてた。」


「っ! 災難だな全く!」


 悠斗はベランダから飛び出し、武弘の機体のコクピットに移る。


「戸締りは?」


「してる」


「ガレージ行くぞ」


 武弘は機体を操作し、ガレージに向かう。


「ポッドがぶっ壊されて液体が回収されてた。あと連合の特殊部隊が部屋にお邪魔してらっしゃった、殺したけど」


「だからお前そんな血まみれだったのか」


 前髪をかきあげる仕草をしながら、悠斗は苦虫を嚙み潰したような顔をする。


「とりあえず、因幡は連合に何か関りがあるんだろうさ。でなきゃ、あんな連中が来るとは思えん」


「村正重工がそう仕掛けた偽装って線は?」


 村正重工は元来そういうことをすると噂されている。


 傭兵としてバイトに勤しむ悠斗にとっては、同業者からよく聞くことだった。


「俺が村正重工からどんだけ厚遇貰ってるか、知らんわけじゃないだろう? わざわざ投資してる人間殺すなんて馬鹿な事はしないだろう」


「それもそうか」


 彼らは、そのままガレージに向かって、飛翔した。


 一体何が起こっているのか。知りたいことだらけだが、悠斗らには、そんなことを考える時間はなかった。

 遅れて申し訳ねぇ、軽沢えのきです。

因幡が連れ去られました。どうしたものだろうか……

今回は短めです。それでは、また。


人物紹介

桐林幽香

タクシーのドライバーをやっている女性。年齢は19。

悠斗たちから見れば、先輩にあたる人物。

常に冷静沈着な人物だが、いまいち情熱に欠けるとも。


登場機体

TBR-009GB

「白兵戦仕様切断特化型」

開発コードは「不知火(しらぬい)」。

特殊な金属を用いた刃を用いるブレードを腕部に内蔵した機体。

その刃は一定の速度で振ると次元を切断する効果があり、単純な質量だけよりも容易く装甲を切り裂くことができるようになった。

すれ違いざまに切り裂くことを想定しているため、刃は前腕部から飛び出る。

マニピュレーターには何も握られていないが、その余りある剛性を用いた白兵戦も可能。

ブレードの切断した次元を取り込んで射出する「次元殲滅砲」を搭載している。

武弘の機体。


殲滅砲:次元殲滅砲

サヴェージ:ディメンジョン・サヴェージ

近接兵装:ブレード


S-A01

「小型輸送機」

開発コードは「デリバリー・マスコット」。

Aデバイスに追従するレベルの速度を誇り、なおかつキャパシティの高い機体性能も相まって、迅速な補給を可能とした。

とても頑丈であり、各地域で幅広く運用された。

同じ系列の機体であるW-A01と共に、現在は民間でも広く用いられている。

列車の窓から見えた機体。


殲滅砲:ポータル砲

サヴェージ:ポータル・サヴェージ

近接兵装:無し

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