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クロス・ザ・ルビコン  作者: 軽沢 えのき
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白い閃光

 朝4時頃のこと、悠斗は空港でコーヒーをすすっていた。


 近くでは魔法使いたちが箒や杖の手入れをして、パイロットたちは機体のコンソールを弄っている。


 旧式の機体から、最新型をパクってきたものまでより取り見取り。


 悠斗はバイトがてら、ガレージに置いてあったAデバイスに乗り、戦場に行くのだ。


 機体のコンソールに、メッセージと共に音声が流れる。


「よろしいでしょうか、作戦を説明します」


 いつも仕事を持ってくる女性の声だ。


「今回の作戦は、タイパー連合とヘリオス共和国の国境付近に駐屯している、両軍の殲滅です」


 国境付近での仕事というのは、総じて報酬が高い。


 いつも大規模な戦闘、或いは膠着状態が延々と続く不毛の大地。


 Aデバイスと魔法使いたちの闘いが連日発生している。


 生身の男女と、鋼鉄の巨人がドンパチやりあっているような場所だ。


 そんな場所に送り出されるのだから、いくら素人を雇おうとしても高くなるのは当たり前だろう。


「両者の睨みあいは三日ほど前からです。彼らの行動により、我々の輸送ルートが一部利用不可能になっているのです」


 要は道の邪魔だから消してほしいということだ。


「鳴神悠斗は、共和国側の軍隊を背後から強襲。魔法使いたちは、Aデバイスを攻撃してください。敵部隊壊滅と同時に、離脱すること。以上です」


 悠斗はそれを聞くと、コクピットのキャノピーを閉じて、エンジンとシステムを起動する。


『メインシステム、通常モードを起動します』


 タッチパネルを操作し、各武装にもエネルギーを供給する。


 脚部についていた二対のパネルが外れ、コクピットの正面で収束する。


 パネルの中心部に巨大なエネルギーの塊が発生し、パネルはそれにがっちりと固定される。


「鳴神悠斗。発進タイミングはそちらに委ねます。いつでも発進してください」


 通信機越しに、先ほどのブリーフィングの女性の声が聞こえる。


「了解。じゃ、発進しますねー」


 Aデバイスはその場で垂直に浮き上がり、スラスターを点火する。


「鳴神悠斗、TBR-009Aブロードソード、出撃します!」


 その場でソニックブームが発生し、200キロ進む。


「作戦エリアに到達。共和国軍に対して攻撃を開始する」


 その場でタイムラグなしで停止し、上下左右に回転し方向を修正した後、共和国軍の背後に回る。




「……おい! 巨人だ!」



 共和国軍の一人が杖で悠斗の機体を指す。


 それを聞いた兵士たちは杖を握りしめ、警戒態勢をとる。


「遅いこと」


 悠斗の機体、ブロードソードはその場で変形し、人型の形態をとる。


 展開した頭部の目玉が真っ白に光り輝き、朝焼けと共に兵士たちを照らす。


『エネルギー充填完了、サヴェージ、ゲート開放よし。バイト、ビットスタンバイ完了』


 人型になったブロードソードの前に、サヴェージと呼ばれた、パネルの引っ付いた球体が、回転を始める。


『ライフリング回転率良好、ポータル粒子圧縮濃度クリア』


 パネルの回転は、残像が見える程になり、周囲にはエネルギーの奔流がほとばしる。


『殲滅砲準備完了。撃てます』


 この間、わずか三秒である。


「ファイア」


 落雷のような音と共に、兵士たちに光が降り注ぐ。


 瞬く間に消し炭となり、砂漠化している土地は砂嵐が巻き起こる。


「……殲滅砲によって殺害された方々の霊には、哀悼の意を表する。仕事なんだ、勘弁してくれ……」


 悠斗はブロードソードを飛行形態に変形させ、残存兵力の掃討にかかる。


「化け物め! アイツは、アイツは今度結婚しようとして……!」


 そう言って、兵士は杖を向ける。


 光の玉のようなものが何百発と発射され、ブロードソードに襲い掛かる。


「ちっ」


 突如、ブロードソードの底面に、魔法陣が浮かび上がる。


「きょ、巨人が魔法を!? ま、まさか……」


 彼らヘリオス共和国の兵士の中では、必ずと言っていいほど耳にする噂がある。


 老兵から新米まで、実戦に出ていなくても耳にする噂。


 魔法陣を使う、青白い巨人……


 真っ白な瞳に睨まれたが最後、生きて帰る方法は神頼みしか無いと言われるほど。


「し、白い閃光……!」


 白い瞳が朝焼けの空に燦然と輝き、青白いブースターの炎が、藍色の空を彩る。


「撤退だ! 総員退却せよ!」


 隊長と思しき人物がそう呼びかけ、周りの兵士たちは蜘蛛の子散らす勢いで逃げていく。


「撤退し始めたか……」


 突如、コクピットにアラート音が鳴り響く。


 それと同時に、背後からビームが飛んできた。


「くそっ」


 左腕を前にかざし、魔法陣でブロックする。


『リコンに新たな反応を検知、敵総数2。両機共にAデバイスです』


「でしょうな」


 通信機越しに魔法使いの声が入る。


「ごめん悠斗君、取り逃がしちゃった」


「そいつらで最後だ。そっちに向かうから持ちこたえてくれ」


 そんな無責任な発現が、悠斗の耳に突き刺さる。


「はぁ……昔の五対一に比べりゃまだマシか」


 二体のAデバイス相手に、たった一人で突っ込む悠斗。


 パイロットは、その様子にひどく驚いていた。


「あれが白い閃光……ならば!」


 全身を青く塗装された機体が、悠斗に突撃する。


『シア少尉! 連携を崩すな!』


 悠斗はその様子を見て、


「あの形状は010Nか……てことはエリートだな!」


 機体の速度を上げ、衝突するつもりで向かう。


 シアと呼ばれたパイロットは、人型に変形させ、巨大な鈍器をマニピュレーターに掴ませる。


「貰ったぁ!」


『馬鹿! その機体の挙動が分からないのか!』


「あほんだら!」


 機体を変形させると同時に空中で仰向けの姿勢になり、鈍器を最低限の動きで躱す。


「なっ! きゃあっ!」


 そのまま腕に取りつき、関節技を決める。


「010Nは中々お目にかからんからな、腕の一本貰ってくぞ!」


 そして、ブロードソードの腕力で思い切り引きちぎろうとする。


 刃物を装備しているにもかかわらず、である。


「シア少尉!」


「こんのお……舐めるなあ!」


 シアの乗機、TBR-010N「カレトヴルッフ」はエリート向けに生産されている。


 パワーは旧式のブロードソードよりも高いのだ。


 力いっぱい左腕を振り回し、ブロードソードを追い払おうとする。


「力の入れ方がなっちゃいない!」


 悠斗はブロードソードの近接兵装、ヒートソードを取り出し、腕の付け根に突き刺す。


 カレトヴルッフの左腕付け根はみるみるうちに解け始め、胴体と腕を切り離す。


「きゃあああ!」


 ブロードソードの足がカレトヴルッフの胸に勢いよく当たり、地面にたたきつける。


「あー付け根は売り物にならんな。まっ、肘関節くらいなら売り物になるだろ」


 真っ白な瞳で、カレトヴルッフの左腕を見つめるブロードソードは、まるで悪魔のようだった。


「あ、悪魔……」


 シアはコクピットの中で、ガタガタと震えていた。


 いきなりの襲撃と、共和国側の謎の発光。


 上官に連れられて、ついに実戦と張り切れば、思ったよりも数倍強いネームドの機体。


 そして何よりも、自分の未熟さが招いた失態が、何よりも悔しかった。


「さて……どう出る? こっちとしちゃ臨時報酬が手に入ったから満足なんだが……ん?」


『リコンに新たな反応を検知。敵Aデバイスを確認、TBR-012[フランベルジュ]です』


 悠斗が検知された方角を見ると、確かに一機の機影があった。


 サンドブラウンの塗装を施された機体が、朝日を背後にこちらに向かっていた。


『敵、急速接近』


「ん!?」


 ブロードソードの懐めがけて、一体のAデバイスが小さなアックスをもって突撃してきた。


「009T! ミグラントか!」


 ミグラントと呼ばれた機体は、アックスを振り下ろす。


 ブロードソードのヒートソードでそれを防御すると、今度は足でコクピットを蹴ろうとしてきた。


 しかし、その足はサヴェージの突撃により、粉々に砕けた。


「隙ありって思ったか!? あるのはそっちだろうが!」


 ヒートアックスを握っていたマニピュレーターを、何も握っていなかった左手で握りつぶした後、ヒートソードを胸に突き立てる。


「大尉!」


 シアが叫ぶ。


 その声も空しく、両手の開いたブロードソードは、貫手でコクピットを貫く。


『ぐあああああああ!!!!!』


「大尉! そんな……!」


 手を抜いたとき、その手首は真っ赤な鮮血で穢れ、コクピット付近に返り血を散らす。


「……向かってくるからだよ」


『フランベルジュ、作戦領域に到達、こちらに来ます』


「まあ味方なわけあるまいな。あのカラーは」


 フランベルジュと呼ばれた機体は、ブロードソードに近づき、巨大な剣を振るう。


 裏拳で剣の軌道を逸らすが、それと同時に、バイト・ビット兵器によるビームのオールレンジ攻撃が襲ってくる。


「あーうっとうしい!」


 その瞬間、ブロードソードに一体のAデバイスがとびかかる。


 先ほど倒したと思ったミグラントだ。


「死にぞこないが良く動く!」


 ブロードソードの両腕でミグラントを持ち上げ、ビットの射線に被せる。


『し、シア少尉……! ドナー中佐が援軍に来てくれたんだ……死ぬなよ!』


「大尉……大尉!」


 その直後、ミグラントは全身から爆炎を噴き出しながら、散っていった。


「ああ……!」


 それとほぼ同じ頃合いに、魔法使いたちも到着する。


 意外と残党狩りにてこずったようだ。


「お待たせ―! さぁ、じゃんじゃんいくわよ……って雰囲気じゃないわね」


 フランベルジュはビットを後退させ、中破したカレトヴルッフを掴み、撤退する。


「逃がすか!」


 魔法使いの一人が追い打ちをかけようとするが、


「止めなさい! 戦意もない相手を攻撃して手に入る報酬ほど汚いものもないわ!」


 別の魔法使いがそれを引き留める。


 そして、砂漠には燃え盛るミグラントの残骸と、カレトヴルッフの左腕だけがある、静かな土地に変わった。


『みなさま、大変ご苦労様でした。帰還してください』


 通信機から声が聞こえた。


 カレトヴルッフの左腕を拾い、


「了解。これより帰投する」


 早朝の朝日に照らされながら、帰還するのであった。

こんにちは、軽沢えのきです。

ようやく出せました。ここまで見てくださり、ありがとうございます。

これからは一話につき一回くらいは出しておきたいところです……

それでは、また。


設定紹介


魔法

共和国側の戦力。

様々な超常現象を引き起こすために用いられる。

彼らの吐く息に含まれる、特殊な粒子を用いて、様々な超常現象を引き起こす。

どれだけの規模の現象を引き起こせるのかは、使用者の想像力が高さが関係しているという。

そのためか、共和国側の人間は脳みそが量子コンピュータクラスの演算能力を持っているとされる。

彼らはある意味宗教的、文明的な問題で、Aデバイスは用いていない。

そのため、世界中で魔法を使うようなAデバイスは極めて稀。


白い閃光

共和国側でよく知られる噂。

なんなら連合側でも話題に上がる。

青白いカラーリングで、カメラアイが真っ白な機体である。

魔法陣を使うAデバイスという、490回以上ある戦争の中でも滅多に事例が確認されなかった機体でもある。

正体は悠斗なわけだが、彼はこの異名を知らない。


登場機体

TBR-009A

「初期量産型」

開発コードは「ブロードソード」。

世界で初めて開発されたAデバイス。

大量の技術をつぎ込んだことで、最高秒速200キロを叩き出す。

対ポータル用武装「殲滅砲」と、ポータルを媒体とした特殊兵装「サヴェージ」を搭載している。

第一期ポータル戦時には一個師団クラスが量産され、中期、後期生産型と分かれる。

悠斗機は本機体の残骸をいくつかレストアしたもので、一部別機体のパーツも補修用に用いられている。


基本武装:メガ・レール・マシンキャノン

殲滅砲:ノーマル殲滅砲

サヴェージ:ノーマル・サヴェージ

近接兵装:片刃式ヒートソード



TBR-010N

「量産検討機」

開発コードは「カレトヴルッフ」。

TBR-010Mとの次世代量産機コンペティションにおいて、対抗馬として用意された機体。

あちらがコスト重視の機体なのに対し、こちらはコストの高騰に目をつむり、逆に高スペック機体として開発された。

バイオコンピュータを搭載し、従来型のコンピュータと比べて130%の反応性向上につながっている。

結果としてコンペティションには敗れたものの、その高いスペックとある程度の量産性の高さに目をつけられ、エリート部隊の機体として配備された。


基本武装:メガ・レール・マシンキャノン

殲滅砲:超殲滅砲

サヴェージ:ノーマル・サヴェージ改

近接兵装:マージン・ハンマー



TBR-009T

「長距離航行装備型」

開発コードは「ミグラント」。

単独での長距離航行を目的とした仕様。

外付け式のプロペラント・ブースターの増設や、各種貯蔵タンクの装備により、長距離航行からの爆撃、或いは味方への物資補給など、

多岐にわたる目的において運用されたとされる。


基本兵装:メガ・レール・マシンキャノン

殲滅砲:ブースト殲滅砲

サヴェージ:プロペラント・サヴェージ

近接兵装:小型ヒートアックス



TBR-012

「各種兵装性能向上版」

開発コードは「フランベルジュ」

ブロードソードをベースとした機体。

殲滅砲以外の武装に力を入れており、あらゆる場面に対応可能な機体となった。

半面、殲滅砲に割くリソースが無かったため、ワーストクラスの出力しかない。

尚、この機体は一般人が乗ることを想定している。

サンドブラウンのカラーリングをした機体は、第497次世界大戦以降、高い戦績を叩き出し続けている。


基本兵装:メガ・レール・マシンキャノン

殲滅砲:プロトタイプ殲滅砲

サヴェージ:フランベルジュ・サヴェージ

近接兵装:デモリッション・ソード

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