持つべきは友
「……この人、誰?」
悠斗は武弘のことを因幡に紹介するどころではなかった。
隠れてくれと言ったのに、一度隠れたと思ったら仁王立ちしているのだから、そうなるのも分からなくはない。
「い、因幡……あのー……武弘?」
「……」
武弘も呼ばれてびっくりしたのか、勢いよく悠斗の方向を見た。
「ちょ、ちょっとお嬢さん。悠斗、こ、こいつ借りるな」
「?」
武弘は悠斗を連れ、玄関前まで行く。
「ちょっとお前どうしたよあんな美人連れて! 拾ったのか?」
「ちげぇよ! 朝っぱらに届いた段ボールの中に入ってた荷物の中に入ってたんだよ!」
「そんなへんちくりんなマトリョーシカがあってたまるか!」
まるで夫婦の修羅場か何かかと言わんばかりに怒号が飛び交う。
因幡はおどおどしながらそれを眺めている。
「それにあれお前のいつも着てるスウェットじゃねえか! 昨日アレ着てオンライン授業受けてただろ!」
「あれは別のやつ! あれ九着持ってるんだよ!」
「どんだけもってんだよ!」
「三着買おうと思ったら三着セット三つ買っちゃったんだよ!」
「お前そんな金の使い方するからいつも月末金銭的な余裕がないんだぞ」
「やめろ! 刺さる言い方はやめろ!」
武弘は言いたいことを大体言った後、数秒黙り、溜息を吐く。
「……まぁいいや。お前がか弱い女子連れて淫らなことするような奴じゃないってのは知ってるし」
「……てっきり最後まで疑いまくられるもんかと」
「伊達に13年付き合ってないからな」
彼らは幼稚園時代からの付き合いだ。
廃墟に幼稚園があるのかと思うかもしれないが、そういうものである。
「とりあえず、ゲームソフトは返してもらうぜ」
「あ、うん。どぞどぞ」
再び武弘は玄関をくぐり、畳の部屋にあるゲームソフトを取りに行く。
その後ろ姿を、因幡が見ていた。
武弘がそれに気づき、振り向く。
「どうした? 俺の背中なんか変か?」
「たけひろ……あなたの名前は、武弘?」
「そうだよ。おれは久我武弘。あんたは……因幡だっけ?」
「そう。因幡春佳」
「あーね。いい名前じゃんか」
「武弘君って呼ぶね」
因幡はいきなりそんなことを言う。
「んえ? あ、ああ」
「悠斗君は悠斗君って呼ぶ」
悠斗の方に振り向いて、同じようなことを呟く。
「え、あ、うん……」
どこか不思議な空気になりながら、武弘はゲームソフトを手にする。
「あああったあった。ったく、次からちゃんと期日通り返せよ?」
「へへへ、さーせん」
「ったく……お?」
武弘はスマホを取り出したと同時に、画面に食いついた。
「どったの?」
「いや、なんかニュースでよ、国境付近でAデバイスが確認されたんで、また戦争始まんじゃねえかって」
「うっそじゃん。この前の停戦っていつだっけ?」
「三週間前じゃなかったか?」
三週間前に、連合と共和国の間で第498次世界大戦が停戦を結んだのだが、どうやら再戦が近づいてきているらしい。
因幡はスマホの画面を見ようとする。
武弘はそれに気が付いて、スマホの画面を見せる。
翼のない飛行機のようなもののシルエットを映した写真と、それの正体と思われるCG映像が並んでいた。
「……!」
因幡の頭の中で、フラッシュバックが起こる。
両親と、窓の向こうにいる、サンドブラウンの戦闘機。
その戦闘機が人型になって、こちら側に吹き飛ばされてくる様子。
10年間思い出すことのなかった記憶が蘇り、全身に鳥肌と冷や汗が浮き出る。
「おいおいおいおい、大丈夫か?」
「ちょ、ちょっと横になろうか……武弘様子見てて布団敷いてくる」
「お、おう……」
数分後、因幡は布団に横になり、荒い吐息を繰り返していた。
「……見せなきゃよかったのかね」
「いやーどうだろ、不可抗力だと思う」
悠斗は武弘の呟きに答える。
元々そういう持病だったのかもしれないし、そうでなかったとしても、彼女に昔何があったのか、彼らは知らない。
見たがっていたので見せたらこうなった。仕方ないことである。
しばらくすると、段々因幡の呼吸は落ち着き、2人ともほっとしていた。
「はぁ……なんか病気とかじゃなくてよかった……」
武弘は首を縦に振り、立ち上がる。
「そうだなぁ……あ、そういや悠斗。お前に依頼来てたぞ。コーテックス商会から」
武弘がそう言うと、悠斗はスマホを取り出し、メールを見る。
確かに届いていた。明日の朝四時に、作戦を開始する旨が記されている。
「ああ……でもどうしようかな。因幡もいるし……」
「……もし、嫌じゃなかったらなんだが、俺らが見とくぞ」
「ホントに?」
「ああ。恭介とか祐奈さんとか呼んどくからさ。恭介は今日の夜頃帰ってくるだろうし」
「ありがとう! あっ、でもどうやってこの子移動しよう……」
「玲さん呼ぼうかと思ってる」
「あ、はい」
と、いうわけで、悠斗はバイトに行くことになった。
今月の金欠気味な懐を温める、絶好のチャンスである。
(持つべきものは友って言った人はマジで共感できるわ……)
悠斗は、この時ばかりはそう思っていた。
こんにちは、軽沢えのきです。
次回です。次回こそきちんとロボットが出ます!
これはほんとですからね!
それでは、また!
キャラ・設定紹介
久我武弘
悠斗の幼稚園時代からの友人。年齢は17。
黒髪のくせっ毛が特徴的な人物。
割と義理堅い。
Aデバイス
正式名称は「アナイアレート・デバイス」。殲滅端末とも呼ばれる。
タイパー連合軍が移住する前に戦っていた、外宇宙生命体「ポータル」と戦うために用いた、可変戦闘機。
股間部にコクピットを持つ。
ワーストクラスの速度でも秒速100キロを叩き出す、常識破りな速度と、尋常ではない強度が特徴的。
下半身と腹部にドラム型のフレーム構造を採用しており、これにより人型形態と戦闘機形態を自由に切り替えられる。
ポータルの身体を作り上げる「ポータル細胞」を用いた自律兵器「サヴェージ」と、それを人工的に再現しようとした兵器「バイト・ビット兵器」を標準搭載している。
変形時には股間部が前に大きく突き出て機首となり、上半身、および両足は後方に折りたたまれ、ブースターとなる。
サイズはたいていの場合12メートル前後である(人型形態時)。
連合
正式名称はタイパー連合統一機関。
主にAデバイスを主戦力としており、自らの領土を広げるため、日々共和国と戦い続けている。
ジェス・ドナーはこちらに属している。
共和国
正式名称はヘリオス・パシフィスト共和国。
魔法使いたちの住む国であり、Aデバイスのことを「巨人」と言っている。
因幡の出身国でもある。
第498次世界大戦
第497次世界大戦から二か月後に勃発した戦争。
三か月で停戦協定が結ばれた。