第九話
家に帰ると母親から滅茶苦茶怒られた。
そりゃそうだ、言い訳に「雪遊び」を使ったのだから。ココアさんの「魔法」が籠った飲み物を飲んでいなければ、玄関で震えながら怒られるところだった。
そんな訳で今僕は風呂に入っている、石を削った湯船に肩まで浸かり、冷え切った体をゆっくりと温めている。
(今日は良いことと悪いことが、バランスよく釣り合ってるなぁ)
そんな事を考えていたが、風呂の温かさといろいろなことがありすぎて、だんだんと眠くなってきた。
(いけない、寝るならベッドで寝なきゃ……)
睡魔をいったん退け、僕は風呂から上がった。風呂と下着のある洗面所を繋ぐドアを開け、僕はタオルを取って体の水分を拭う。パンツを履き、長袖のシャツに袖を通す。
「あれ、鏡になんか付いてる」
置手紙のような物が貼ってあった、「鏡を掃除しておいてくれ」と書いてある。
溜息をつき、僕はタオルで鏡を軽めに拭いた。
ぼやけていた鏡に映る物や、棚が鮮明に映った。
「……ほんと、なんでなんだろ」
でも、僕だけが、鏡の中に写る僕の顔だけに、目や鼻と言った顔のパーツは無かった。
母さんの顔は写すのだ、僕の顔だけが写らない。
この鏡だけではない、少なくとも僕の人生の17年間、僕は自分の顔を見たことが無い。
だから自分が不細工なのか、それともハンサムなのか分からないため、服はいつも母親に選んでもらっている。
「……なぁ、お前はどんな顔してるんだ?」
答えるはずもない平らな何もない肉の面は、ただただ鏡の中で揺れていた。
「魔法世界の鏡」
現実とは違い、水の入った硝子の中に魔法が掛かっており、鏡から見える世界がそっくりそのまま映し出される