第八話
ココアさんと別れてから数分、僕は難無く制服を受け取る事が出来た。
途中クロウリーやその手下の二人が仕返しに来るんじゃないかと身構えていたもののそんなことは無く、変に身構えている自分が少し恥ずかしくなるぐらいだった。
『……君、いじめっ子には逆らっちゃいけないとか、やり返した方が負けとか、そんな甘い考えだと死んじゃうよ?』
帰り道、この言葉が僕の頭の中でずっと巡っていた。
もちろんココアさんのこの意見は間違っている。どれだけ酷い事をされてもやり返してはいけない、「お互い様」などという大義名分を大人と加害者に与えてしまうからだ、そうなれば僕は相手に頭を下げなくてはならず、最悪、助けてくれる人が一人も現れないかもしれない。
「…………」
でも、ココアさんの意見にも賛成できる余地はあった。
そりゃあ、何でもかんでもやり返していたら自分が悪い。だが、先程のように命の危機を感じるまでに虐められる場合、やり返さなければ殺されてしまう。
ココアさんが来てくれなければ死んでいただろう、そうなれば当然クロウリーは『ヘルヘイム』にぶち込まれるだろうが、それを嘲笑う事が出来ないのであれば意味が無い。
もしも、ココアさんが来なかったら……。
「……帰ろう」
取り敢えず、今は箱の中の制服を着て、帰りを待つ母に見せてあげたかった。