第七十八話
『霊道』を直進する『幽霊車』。ある意味密室の逃げられない状況の中、僕は追撃者を睨みつけていた。いいや、睨みつけるなんてとんでもない。呪いでも飛んできそうで視点をずらしっぱなしなのが現実だった。
『白いアルビオン』、『霊道』に関する著書に書いてあった最悪の単語。
狂王ヴォ―ティガーン。アーサー王伝説において、あの大魔女モルガンと肩を並べる程の悪行を、王という正統たる立場を以て強行し続けた存在。
アルビオンという単語は、英国ブリテン(今のイギリス)の古い呼び名だ。『アルビオンの竜』というのは直訳すると、「ブリテンの竜」という意味になる。
白と赤があるのは簡単な話。白がヴォーディガーン、赤がアーサー王……つまり、今僕らの目の前にいるのは、『白いアルビオン』という訳だ。
『なるべく姿勢を低くしろ! 特別サービスだ! あと10秒で目的地に送り届けてやる!』
フロッツさんの気合の入った声。『霊道』の景色のすっ飛び具合を見るにスピードは確実に上がっているのだろうが、後ろの『白いアルビオン』との距離は縮まっているばかりだった!
『畜生!』
3秒経った。もういつ攻撃されてもおかしくない……魂の形状が見る見るうちに変わっていき、ボコボコと膨れ上がっているじゃないか!
パーシヴァルさんが杖を握っているのが見えた、無理だ。あの化け物が本当に『白いアルビオン』……狂王ヴォ―ティガーンなら、「円卓」の合格者程度では勝てっこない。それこそ本当に聖剣だの、「円卓の騎士」全員が集結しない限り。
「駄目だ、勝てっこない! フロッツさんに賭けるんだ!」
「このまま死ねと言うのですか? ――冗談、私はパーシヴァル。「円卓」の守護騎士、「ロンギヌス」とその名を授かったからには、死ぬまで逃げは許されない!」
杖の構え方が変わった。短い杖を、まるで投げ槍のように構え始めたのだ。
「是より我は墓暴き。誇り高き騎士よ、我が蛮行を赦し給え――」
――ロンギヌス。パーシヴァルさんがそう言いかけた瞬間だった、迫っていた『白いアルビオン』に、赤い光が突っ込んでいったのは。




