第七十話
下校時間真っ只中。陽光が差し込む廊下を歩いている。
「生徒指導」の担当教師、シガルレット・ココアに靴を奪われたのが原因だ。さっきから下駄箱に向かう生徒の波をかき分け、必死に人の流れに抗っていた。おかげで白い目で見られまくっている。
(畜生、いい人だと思ったのに……)
やっぱり教師なんてこんなものか。頭が良くても悪くても、教職に就く者はみな実力主義で、弱い者を嘲笑っているのだ。それは誰でも例外ではない、オロボ先生も、ルナさんも、シンさんも同じだ。
「僕の事をクソ野郎って思うのは構わないんだけどさ」
心を読まれたかのようにベストなタイミングで言葉が入ってきた。耳からではなく直接脳へ……「基本の魔法」の内の一つだろう、僕だけに伝えるべきことを伝えてきたのだろうか? これまで考えていたことが、全て筒抜けだった事実に頭が真っ白になった。
「ルナやシン君、アヤマさんを侮辱するのはやめてほしいな。オロボさんなんて優しい方だと思うよ? あと、僕は退学だの減点だの、そういったつまんない制度に介入する気も無いしする権限も無い、だからいくら僕に悪口を言ってくれてもただココア特製グーパンチが飛んでくるだけだからそこはよろしく」
なるべく、考えないようにした。考えたら心を読まれる、人がいる状況で言われるのは、まずい。僕はなるべく足元を見るようにして、深い呼吸を取り始めた。
「そうやって足元だけ見てる気かい?」
僕はさっと顔を上げた。何を皮肉にしたのかは心当たりが有り過ぎたが、どれもこれもが触れられたくない物ばかりだった。
「僕は今から君を突き落とすよ……誰も踏み入れた事のない世界に。君は否が応でもソラを見ることになる。君自身を照らしてくれる光を放つ、温かい星が浮かんでいる……かもしれないソラをね。さぁ着いたよ、ここだ」
僕が何か思考し、怒りのままに言葉を言い返す前に目的地に着いた。何を言っても相手は受け流すだろう、そんな事を考えたらバカバカしくなり。僕はその目的地とやらを目視した。
そこは、女子トイレだった。




