第七話
男性にしてはやけに白く華奢。クロウリーの情けない背中を茫然と見つめている僕は、数十秒経ってからようやく自分の状況を理解した。
「あっ、あの……ありがとうござ
「ふはっはっはっはっ! 礼などいいさ! 僕がやりたいからやったわけだし!」
爽やかな笑顔を浮かべて僕の方を見てくるこの人は、冷静な目で視るととてもきれいな人だった。
白狼を連想させる美しく白い短髪、澄んだ湖のような色をした瞳、男性にしては華奢なほうで、革靴を履き、青や水色がベースで銀の刺繍が入ったローブを着ていた。
美しい見た目とは裏腹に、声は中々に低く、それが余計に魅力を深めているのも事実だった。
「僕はシガルレット・ココア、さっきのいじめっ子が言うとおり、「基本の魔術師」って呼ばれてる人種のうち一人さ、君の名前は?」
「ココアさん、ですね。僕はパラケルスス・ホーエンハイムです」
ココアと名乗った男はにんまりと、ちょっと気持ち悪いぐらいに、笑い。僕に握手を求めてきた。
「ここであったのも何かの縁だ、記念に握手でもしておこう」
「えっ? あっ、はい……」
恩人とはいえ初対面の他人なので、いきなり握手を求められて内心びっくりしている、そういえば、こうやって他人と握手をするのは、何時ぶりだろうか。
意外と大きな手だという事が手袋越しでも分かった、右手と左手、左手と右手で一回ずつ握手をした後、僕は改めてお辞儀をした。
「本当に危ない所をありがとうございます……よければ家に来ませんか? 今日はいろいろあって、たくさん料理が出される予定なので……」
「だから、ただあのクソガキがムカつくからやったわけで、君を助けたわけじゃないんだけどなぁ」
まぁいいか。ため息とともに頭をぼりぼりと掻いた。
「食事は遠慮しておくよ。昔から疑り深い性格なものでね、他人の家で食事はしない事にしているんだ」
ココアさんは僕の事をじっと見つめた。
「……君、いじめっ子には逆らっちゃいけないとか、やり返した方が負けとか、そんな甘い考えだと死んじゃうよ?」
少し苛ついたような声だった、僕は慌てて弁解しようとするが、ココアさんは。
「なーんてね☆ まぁ、運が悪かったね今日は、今度は上手く逃げるんだよ?」
僕の肩をポンポンと叩いた後、「縁があったらまた会うかもね~」と言いながら、ココアさんは僕に背中を向けて去って行った。
「……」
僕はもう一度頭を深く下げてから、本来の目的地へと足を進め直した。