第六十六話
雷を纏った鱗人間の体は、最早目視することができなかった。
見えるのは残像。太陽を直視した後のような眩しさが尾を引きながら、瞼の奥に沁み込むような影を作り出していた。
操る物が雷ならば、本人も雷のように暴れまわるという滅茶苦茶な能力に絶句した。こんなもの、攻撃を当てるどころか姿を確認する前に決着がついてしまう。
何一つ納得ができないこの状況下において、この化け物がただの化け物ではないことを無理やり納得した。あんな化け物に襲われれば、戦う前に殺される。
明るすぎて黒ずんだ残像が縦横無尽に駆け巡った後、あの老人「獺」の方へ大雷霆が降り注いだ。威力はそこまでではなかったものの、人を一人殺すには余りにも大きな力だった。
「ハッ、随分と足腰が弱くなったんじゃねぇかぁ「獺」ォ? いつもならこんな攻撃とっとと避けて、俺の顔面に一発入れてるのによぉ」
「最近「魔法」の訓練ばかりしていたからなぁ、まぁ許してくれ。いつ逝ってもおかしくない爺なのだからな」
一瞬だけ姿を現した鱗人間、それの影を踏むように立つ「獺」。背後を取られたことに気づいていなかったのか、引き裂かれたような笑みが揺らぐ。
「こ、の――」
「【縛り】」
鱗人間が拳を振るうと同時に鎖が現れた。鎖は鱗人間の体を隅から隅まで縛り上げ、完全に関節を決める形で固定された。
鱗人間は力む。しかし鎖は音を立てるだけでびくともせず、体から発する雷も地面に吸い込まれていった。雷の「魔法」は、何故か地面に向かって吸い込まれていくのだ。
「すまない。今日はどうしても君と遊ぶことは出来そうにない……もう約束を破っているようだが、よろしい。外の世界に行ってきても構わない、だが君の友達としか殴り合わないように。弱い者いじめや民家を破壊するのは無しだ」
そう言って、鱗人間の言葉を聞く前に「獺」は鎖に触れた。その瞬間、鎖ごと鱗人間が浮かび上がり、消えた。
「……」
目の前のにこやかに笑う老人が、本当に人間なのかどうか怪しくなってきた。




