第六話
「……【浮け】」
流れるような声が聞こえると同時に、僕の体が宙を舞った。そのまま声を上げてひっくり返った二人組と、クロウリーから離れるように進んでいき、数メートル先で雪の上に落ちた。
震える体を両手でさすりながら起き上がると、僕の目の前に赤い液体が入った水筒が差し出された。
「この飲み物には体を温める「魔法」をかけてある、死にたくないなら飲みな」
雪の中で聞こえたあの声の主だった、僕は軽く頭を下げてから水筒の蓋を開け、中の液体を飲み干した。
その液体はとても甘く、じんわりと体中に伝わっていき、甘さはやがて体を温める熱へと転じた。
「さて、人助けの次にクソガキをぶち殺したい殺意が湧くのは何ともあれだけど……どうしてくれようかな?」
僕に背を向けたこの人の手には杖が握られていた、杖の色は金、「魔法使い」の中の「魔法使い」、「魔術師」だけが持つことを許される杖だった。
余りの迫力に、これには流石のクロウリーも動揺した。自分の持っていた杖を見た後に、自分を睨みつける男の杖の色に舌を打ったのを、僕はきちんと見ていた。
「っ、「魔術師」が何だ! 分かるぞ、お前は「基本の魔術師」だろ。三つある「魔法」の中で、一番弱い「魔法」だ!」
そーだそーだ! 連れの二人の気休めの声と共に、焦っていた表情が慢心と嘲りの表情に転じた、――次の瞬間、クロウリーは杖を頭上に掲げ、振り下ろした。
「【燃えろ】!」 火の玉が飛ぶ。
「ははっ、【跳ね返れ】」
金の杖の先端を向けて一言、それだけで、火の玉はブーメランのようにクロウリーの方へ戻って行った。
「ヒェッ!? うっ、うわぁ!」
逃げ出すクロウリー、岩に足を取られて転び、すんでの所で火の玉を回避した。クロウリーに当たらなかった火の玉は、民家に置いてあった雪ダルマの中に突っ込み、消えていった。
がくがくと震えているクロウリー、視線は雪ダルマから金の杖へ向かった。
「ひっ……うわぁ、うわぁあ!」
言葉にならない叫びを放ちながら、クロウリーは仲間の二人を置いて逃げて行った。