第四十九話
「は~い! あと五分で授業が終わるので、途中でも紙を回収しま~す!」
アヤマ先生の声が聞こえると同時に、僕の視界が一気に広がる、集中しすぎて時間の感覚が狂っていたのだ。
自分が何を書いていたのか確認する間もなく紙が宙を舞う、なんだか急にやらかした感じがして、僕は立ち上がった。
「あっ……あの、アヤマ先生!」
「二秒で答えて! 正直早く、君の絵が見たい!」
大人とは思えない程はしゃいだ声だった、先ほどまで「つまらない」と言っていたのに、これでは言っている事が真逆だ。
「その絵……まだ人に見せられるものかどうかも分からないし……何を描いたのか正直覚えてないんです!」
「そうか! なら問答無用だ! 見させてもらおう!」
僕の意見を全て聞いた上でのガン無視、アヤマさんは他の生徒の描いた絵を放り投げ、僕の名前が書かれた絵を両手に持った。
「……うぉお、これはぁまたまた、闇が深いね」
先生は見る角度を変えたり、陽光に照らしてみたり、顔を近づけたり離したりして僕の絵を吟味した、吟味したうえで、こう言った。
「いい絵だ、人間性そのものが曝け出されてる。 ……その上で聞くよ? 君、一体何が憎いのかな?」
「―――――――」
描いていた絵がどんなものかは覚えていない、でも、あやふやな頭の奥に潜む「それ」を見抜かれた事に、僕は驚きを隠せなかった。
絵を見ただけでこんなに的確に言えるか? それとも、そういう「魔法」を使っているのだろうか?
「……僕は」
「……」
何となくだが、先生の質問には答えられた。安易に、そして言ってしまえば後戻りはできないが、答えだけは明確だった。
初めから嫌いではなかった、むしろ期待し、希望を持ち、自分の将来を思い描いた。
だが叶わなかった、どれだけ努力しても、どれだけ走っても、喉が裂けるまで呪文を叫び続けても、石一つも、文字一つも、何も起きることも伝わることも無かった。
「僕は「魔法」が嫌いです」
数十秒の硬直と生徒全員の視線、チャイムが鳴っても、視線はしばらく僕へ向いていた。
・この世界について
この世界において、「魔法」は文明を支える宝であり崇拝すべき概念である。
こちらの世界で言う所の宗教の信仰対象のような物だ、要するに、今回のパラケルススの発言は、教室だけではなく世界全体の信仰を踏みにじったことに等しい。




