第四十三話
「……」
本を読むふりをしながら、僕は目線を一瞬だけ前方に移す。
「……」
そこには滅茶苦茶怖い顔でこちらを見つめるパーシヴァルさんがいる、僕が本を読み始めても何故か机の前で仁王立ちしており、いまだに僕を睨んでいる。
正直言ってかなり気まずい、つい一時間ぐらい前に助けてもらったばかりなため、「自分の席に戻れ」とも言いにくいし、トイレと称して教室を立ち去ろうにも滅茶苦茶怖くて動けない。
(僕何かした? してないよね? なんで?)
頭の中には二つの選択肢がある、この場で大声を出し助けを求めて恩を仇で返すか、取り合えず漏らすまで耐えるか。
「……」
「……」
いや無理だろ。
(無理っ! 誰か助けて!)
本が破れる程手に力が籠る、ぐしゃ、小説のアホなシーンの挿絵がぐしゃぐしゃになった。
きーん、こーん、かーんこーん。
「……え?」
「……次の教科は美術です、用意しておくように」
突然鳴ったチャイムの音を聞き、パーシヴァルは吐き捨てるように言ってから自分の机に戻った。
(たす、かった?)
安堵の息を吐くと同時に僕は見た、廊下から布団にくるまった謎の生物が迫ってきていたのだ。




