第四話
雪が降ってきたことで寒さが増してきた、空を飛んでいる『冬の大精霊』達が相当強いのだろう、少し前までと鳥肌の立ち方が違った。
少し息を吐いただけで白いもやのようなものが宙を舞い、すぐに消えていく。両手の感覚がおぼろげになっていき、慌ててポケットに手を突っ込んだ。
「……」
今思い出すのは、この冷たい手を握ってくれていた父親の優しい温もりだった。
いかつい顔と体にどこか潜んだ穏やかさ、もみあげから顎まで広がったぼさぼさの髭、少し出たお腹と短い足が絶妙なバランスを保っていた。
優しい父だった、母親とも仲睦まじく、僕に対しても優しかった。
でも、ある日を境に突然、家から出ていってしまったのだ。
本当にある日突然、なんの意味も何もなく、外に出て入ったきり帰ってこなかったのだ。
周囲からはいろいろ言われた、父親の職場には若い「魔法使い」がいて、仲が良かったから駆け落ちしたとか……。父親が出て行った数か月後に死んだ『無面』とかいう大悪党だったんじゃないかとか。優しかったご近所は僕ら親子を笑いの種にした。
「……クソッタレ」
真っ白な雪が降り続ける中、真っ黒で、仲間外れの僕は歯噛みしながら歩いた。
足跡には、踏み潰された雪と泥が混ざっていた。