第三十九話
教卓の宝石を手に取り、ルナさんはそれをう~んと高く上に投げ飛ばした。
教室にいた全員が天井を仰ぐ、窓から射す微かな陽光が宝石を貫き、僕らの目を眩ました。
「【付喪ノ式】!」
ルナさんが放り投げた宝石に指先を向ける。すると次の瞬間、落ちる途中だった宝石は弧を描いて急上昇、教室を一周してからルナさんの目の前の教卓に戻ってきた。
僕は十分驚いた、「魔法」が中々に得意だった母でも、此処まで正確に物を浮かし、自分の目の前に持ってくることはできなかったからだ。
「……これだけ?」
しかし、やはり『キャメロット大学』の生徒は曲者ぞろいだ。僕の隣にいたソロモンがこう漏らしたのも納得がいった。
「物を浮かす」こと自体は誰にでもできる、「基本の魔法」の中では確かに難しいがそれはあくまで「初心者」での話だ、『キャメロット大学』の教師に選ばれるような「魔法使い」ならば、逆立ちしている状態であと数個動かせていても何ら不思議じゃない気がした。
「案外大したことないな。あのぐらいの宝石、俺ならあと十個は浮かせ……うわぁ!?」
「ちなみに教師の陰口を言うような、わる~い男の子を浮かすこともできま~す! 【付喪ノ式】!」
ルナさんがまたそう言うと、ソロモンが教室の天井付近をぐるぐる回った。決して壁や他の生徒に当てることはせず、ただただ、物凄い速度で振り回した。
「ほいっと」
「うわぁ!」
机に叩きつけられる寸前で滞空し、ソロモンはそのままゆっくりと、目を回しながら席に座らされた。
(だっ、大丈夫⁉)
「……ごめん、ちょっと寝る」
目を回しながらソロモンが目を閉じた、始めは焦ったが息はしているようだ。
「『キャメロット大学』には、君たちのような素晴らしい「魔法」の才能を持っている子供がたくさん来る。もちろん、並の「魔法使い」の教師では対応できないぐらい元気な子もね」
ルナさんは人差し指を自分のほっぺに押し当て、片眼を閉じて言った。
「そのため、僕たち教師は強い。少なくとも今年は特にね」
可愛らしい仕草を込めたその表情が、少なくとも僕には、「逆らうな」という絶対的な力による命令に見えた。




