第三十一話
引きずられるように手を引かれながら、僕は廊下をしばらく歩いていた。
頭の中は真っ白だ。何も言えなかった、明らかにおかしい、初日から変な奴だと思われてしまった。
こうなることは覚悟していたはずなのに、いざ直面するとこのザマ……つくづく自分が嫌になった。もしも「魔法」が使えていれば、こんな事にもならなかったのだろうか?
「一年一組のパーシヴァルです。体調の悪い生徒を連れて来ました、鍵を開けてもらってもよろしいでしょうか?」
ドアを叩く音で我に返った、目の前には「保健室」と分かりやすく書いてある看板が引っかけてあった。
自分が置かれている状況を頭の中で整理しているとノックが返ってきた、「失礼します」と僕の腕を掴む少女がドアを開け、部屋に引きずり込んだ。
部屋に入るとそこはいかにもな保健室だった。治療に使う「魔法」が込められた石、傷を治す聖水、その他もろもろが備えられてあった。
さてここまでは普通だ……うん、でも問題なのは……。
「あへへ……うふ、ようこそぉ僕の家……じゃなかった、保健室へ」
なんか床の上に敷いた布団の上に、また布団にくるまっている奇妙な生物がいた。
ここから見るだけでは単なる変人、いや変態、しかも逮捕レベルの。
「えへへへ? パーシヴァルちゃん今日も可愛いねぇ……誰? その男」
謎におっそろしい殺意をいきなり放出した謎の生物、芋虫の如く僕の方へ来るもんだから、思わず僕は隣の少女の陰に隠れようとした。
「アヤマ先生、その気持ち悪い口調と動きを止めてください『ロンギヌス』使いますよ?」
そう言った直後、パーシヴァルと呼ばれた白い少女は向かってくる謎の生物の顔面を踏みつけた。容赦なし!
「ぶぶっぶぶ……きょ、今日のパンツの色は……色気たっぷりくr
「口を慎んでください」
そのまま真横に蹴っ飛ばす、ベッドの柱に突撃した謎の生物は動きを止め、何故か幸せそうな顔のまま気絶した。
「……うわぁ」
「何か?」
頸をぶんぶんと横に振る。今の一瞬で分かったことはただ一つ、この『キャメロット大学』の女性は皆、えげつなく乱暴だという事に。
「害虫は駆除したのでもう安心です、体調が優れなかったらベッドに寝ても構いません」
本来はぶっ倒れている謎の生物(教師)が言うべきことを全て目の前の白い少女が言っていた、何となくいつもこんな感じなのだろうかと、僕の頭の中で恐ろしすぎる憶測が飛び交うが、そこは頭の中から抹消した。
「それでは私はこれで失礼します、授業がありますので」
「あっ、ちょっと待って!」
反射的に僕は少女を呼び止めた、「まだ何か?」と振り返ってきた。
「パーシヴァルさん、だよね? ありがと、それとゴメンね、バスの中であんな大きい声出して」
「そこに関してはこちらも謝罪を。初対面にも拘らず侮辱を重ね、貴方の逆鱗に触れたことをお詫びします」
お行儀良く下げられた頭に思わず後ずさった、なんだか釣り合わない気がして、僕もつられて頭を下げた。
「では、私は授業に戻ります。お大事に」
そう言ってパーシヴァルは保健室から出ていった。僕は改めて深くお辞儀をした後、布団の上に腰を下ろした。




