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第二十九話
「……え?」
僕は目をぱちぱちしながら、周りをよ~く見渡した。
視線が僕に集中している、僕と同じような制服を着た生徒が他に8人、ちょっと様変わりした制服を着たのが一人、あんぐりと口を開けている黒板の前にいるのは教師だろうか?
「……出席を取りますので、自己紹介もしてください」
教師がそう言うと、右から左へと自己紹介が始まる。いきなり自己紹介の為のネタや自分のイメージを固めるセリフを考えなければならないようだ。
(ルナさんが何かしたのか……? 遅刻って言ってたけど、此処は教室か?)
考えていても仕方がない、適当な文章を頭に練っていると、いよいよ僕の番だ。席から立ち上がり、一礼してから自己紹介を始める。
「テオフラストゥス・ホーエンハイムです、コッツウォルズから来ました、特技は……」
……あれ、特技?
そう言えば僕、特技なんかあったか?
(しまった! 僕は「魔法」が使えないんだった!)
順調だったスタートからわずか2秒、僕の自己紹介は沈黙の闇へと飲み込まれていった。




