第二百二十五話
有り余る魔力全てを「魔法」に変え、撃ち放ち続ける。
方や町一つを吹き飛ばすほどの威力を、一点集中させた「魔法」。方や地獄の業火をも飲み込まんとする神話の再現「魔法」。英雄、化け物、災害……神でさえ眉を顰めかねない連撃、いいや蹂躙に見えた。
「……まぁ、『魔法』は効かないですよねぇ」
ぼやけた視界の向こう側に大きな赤黒い球。あれだけの「魔法」攻撃を受けても尚無傷……あれは自らが纏う「血界」の応用のような物であり、全ての「魔法」を触れた部分から消し飛ばす代物である。……とはいえ消せる「魔法」の量と質には限度があるはずだったのだが、そこはまぁ、狂王と呼ばれるだけはあるのだろうか? 赤黒い球を構成する物質が崩れ、中から細身の男が現れる。
「……俺を、消す? よくもまぁそんな大それたことが言えたな……ああ、認めてやるよホーエンハイム。お前は俺の敵対した奴のなかで一番強い、アーサーの奴を抜いて、セファールさんを超えて……ああでも、この剣を教えたクソ親父は分かんねぇなぁ」
「へぇえ……じゃあ、交渉しましょうよココアさん。今の『現身』の力は僕にあり、このまま戦っても僕の帆が若干強い。しかし幸運なことに僕らには目的がほぼ一致しています、そうでしょう? 貴方がその力の大部分を放棄することを約束するなら、お望み通り僕は貴方たちの玉座に腰を下ろします」
「へぇえ、そうかい……」
嗤って、笑って。久しぶりにあの、ムカつく上から目線の卑屈な笑い声を聞いた……直後に斬撃。不意打ちによって滴る鮮血は、交渉の決裂を意味していた。
「――残念です」
「魔法」による身体強化。加えて「気功の魔法」による威力の大幅上昇……それら全てを右腕に集中させた一撃は、ココアさんの顎骨と僕の拳を擦り合わせることで直撃した。
「――」
「まだですよ」
殴る。
「――」
喋る隙も「魔法」による再生も許さない。細胞一つ一つ……命という概念をひとつ残らず踏み潰す。さよなら、僕に変わるきっかけを与えてくれた人。そしてありがとう、僕に世界を滅ぼす口実をくれた人。
「――る、ナァ――」
「最後ぐらい素直になりましょうよ」
悔やむような表情が実によく似合う。直りがだんだんと遅くなっていく……体は動かなくなった、呼吸らしき行為は停止した、蠢いていた肉塊も停止した。鮮血だけは、いつまでも空へと上がって、そして堕ちていた。
「……壊しますよ、クソッタレの『魔法』ってやつを」
ありがとうございました。そう言い残して、僕は馬乗りの姿勢から起き上がった。




