第百九十六話
『……もういい、大体予想がついた』
沈むところまで沈んだ僕に、幽霊は淡々と推測の図星を突き刺してきた。
『お前があいつを虐めた理由は簡単だ。学年でトップを取っているお前がケンカを吹っかけて……それであいつが、お前をぶっ飛ばせば『ホーエンハイムは実力ではクロウリーを上回る』という印象を与えることができるからな。自己犠牲じゃねぇよ、ただのエゴだ』
分かっている。分かってはいたんだよ。でも何もしないのは、あのまま彼の努力を本当の意味で無駄にするわけにはいかなかった。だから、やったんだ。
「……あんたの言うとおりだな」
『責めてるわけじゃねぇ。むしろあいつの被害妄想のはけ口になってくれて感謝してるぐらいさ』
そこで、会話の流れはいったん切られた。僕はしばらく黙り、考えて、考えたうえで……尋ねた。
「……あんた、死んでないだろ」
『ああ』
「やけにあっさりと認めるんだな」
『正体は知らないだろう? 手がかりも無いんだし別にどうってことないさ……これだけ言っておくが、俺はあのヴォ―ティガーンとか言う若造には絡んでないぞ』
当たり前だろう、僕は心の中でそう思った。パーシヴァルから話は聞いていたが……やはりこいつは死んでいない。『幽霊車』の運転手が寿命を奪う理由は一つ、自分の死後や幽霊としての活動を維持するために必要だからだ。だがパーシヴァルもあいつも、一度たりとも寿命を奪われたことは無い……そんな状態で幽霊が存在し続けるのは、無理だ。
『ま、こんなの別の世界のお話さ……それよりもお前は、お前自身の初恋にケリを付けな』
僕はそれ以上問い詰めはせず、しかし腰の件からは手を放すことなく、その運転手の後頭部を睨みつけていた。




