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無の魔術師  作者: キリン
【第二部】第六章 不滅の魔術師
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第百八十二話

 散々泣き喚いていたら、いつの間にか昼になっていた。僕はパーシヴァルさんを送るため、『幽霊車』が来る指定の位置まで一緒に歩いていた。


「顔がむくんじゃった……気のせいか、顔の筋肉が痛いよ」

「はい、帰ったらゆっくりと寝ることにします……」


 泣き続けていたせいか、顔中がパンパンに腫れていた。気のせいか心も疲れた、パーシヴァルさんの顔がいつもよりも優れない……こんなだらけ切った表情、今まで見た事が無い。


「ホーエンハイムさん」

「なぁに?」

「さっき、私のこと好きって言ってくれましたよね?」


 思わず転びかけた、ってか転んだ。顔面から地面に突っ込み、鈍い痛みが鼻っ柱を叩いた。パーシヴァルさんが屈んで肩を貸してくれた。……ってか、いきなりあんなことを聞いてくるあたり、パーシヴァルさんらしい。


「言いましたよね? 好きな人って、私の事ですよね?」

「い……言ったけど、何? 正直あんまり聞かないでほしいんだけど……」

「……」


 とても満足そうな顔をして、パーシヴァルさんは僕の腕を掴み、肩に頭を乗せてきた……恥ずかしくて、周りに誰かいないか心配になったけど。そんなことどうでもよくなってきて、そんな事よりも凄く、言うべきことがあるような気がして。


「殺してなんて言って、ごめんなさい」


 先に、謝られてしまった。


「……僕の方こそゴメン。痛い?」

「少し、痛いです」

「そっか……ごめ

「……いいえ、すごく痛いです。痕が残ってしまうかもしれません、私、ホーエンハイムさんにキズモノにされちゃいました」


 何処でそんな言葉を覚えたんだ。そんなツッコミをしようとした自分の軽率な思考に嫌気が指して、今度はしっかりと顔を見て謝る事にした。女の子を殴るだなんて、あの時の僕はどうかしていた。


「ごめ――」

「だから、ちゃんと責任を取ってくださいね」


 その場で立ち止まったパーシヴァルさんにつられて、僕も立ち止った。急に弱くなっていく腕の力に怖くなって、でもちゃんの目の前に立ってくれていて……安心するような、今すぐ倒れてしまうんじゃないかと思うぐらい、未練なんて無いような顔をしていたから。


「……」


 恥ずかしいなんて言ってられない。謝罪の言葉も気休めにしかならない。この人は僕の態度と行動を求めている。これからの……僕が守るべき、取り戻すべき彼女の人生を、僕は証明して保証しなければいけない。


「……うん、約束する。絶対! バカバカしいかもしれないけどさ……僕、パーシヴァルのためなら何でもできる気がするんだ」

「ふふっ……約束、ですよ?」


 小指だけが立てられた手に、僕は同じく小指を立てて、互いの指を絡ませた。

 彼女がこれからも笑って居られるように、僕自身が彼女に許してもらえるように。


(そのためだったら、俺は何だってするよ)


 静かに、彼女に誓った。


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