第百七十一話
目線と肉体が切り離されたような感覚がして、すぐに元に戻る……次に痛みが思いっきり喉元に上がってきて、そのまま思いっきり吐き出したんだ。
死ぬかもしれない、っていうかほぼ死んでいるような気持ちを俯瞰しながら、自分の内臓の位置が正常なままであることを祈った。衝撃で骨が二、三本イカれてしまった……肋骨が肺などの内臓に刺さらなかったのは、不幸中の幸いだろうか。
それでも、僕の体は滅茶苦茶だった。地面に何度も叩きつけられた体の表面からは至る所が出血し、意識もぐらつき……肩などの骨が折れてしまっている。痛いなんて生半可な表現では済まされない――本気で、死ぬ。
「……ぼ、くの」
――だからこそ、キャスパリーグは油断したのだろう。
「勝ちだぁああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
「――え??」
打ち付けられた尻尾を掴み、握る。脇に挟み、遠心力をこれでもかというほどに使い……空中に引き上げるっ! 空中では身動きは取れないはず、さらにこの尻尾は魔力の塊! さっき僕の血がかかったからこそ、いまこうして反撃が出来ていないっ!
「うぉぉぉああああああああああ!」
叩きつけられるキャスパリーグ。運よく頭から地面に叩きつけることができた……昔、授業で習ったことがある。本来の姿から別の姿に変化した魔法生物は、変化している際はその生物並みの耐久力しか持たない。つまり奴は人間並みの耐久力しかもっていない。終わりだ、今頃あいつの体は爆散している。
(……まぁ、僕の体もそこそこやばいんだけどね)
地面に叩きつけられる衝撃が可愛く思えた、思っていたよりも体はボロボロで……自分はきちんと人間なんだなと納得できた。
「ホーエンハイムさん」
パーシヴァルさんの声が遠くから聞こえて、次に僕の体に回復の「魔法」がかけられた。見る見るうちに傷が治っていく……アキレスさんの声が聞こえてからは、さらに傷の治りが早くなった。完全とは言わないが、一命を取り留めるぐらいには回復したことが分かった。
「……」
何とも言えない表情をしたパーシヴァルさんは、そのまま僕の胸の上にうずくまった。泣いているのだろうか? どちらにせよ今死んでも悔いはないっ……と、それを心底汚そうに見るリュウがいた。
「……ありがとう、僕の『血界』に『アロンダイト』の『魔法』をかけてくれて、おかげで命拾いしたよ」
「ふん、痛みは何ら変わらなかったくせに……礼を言うのは俺の方だ、勝ってくれてありがとう」
表情は変えずそのままありがとうを言ってきたことに違和感しか感じなかった。でもまぁ……今は笑っておこう。まだアーサー王もクロウリーも残っている事は分かる、でもあと少しで起き上がれる……ああ、本当に倒せてよかった。
そして僕が力を抜いたら首が横に倒れて、黒い何かを吹き出しながらこちらを睨むキャスパリーグを見てしまったのだ。
出来ることなど、あるはずなかった。




