第百六十二話
着地と同時に攻撃、なんてことにはならなかった。むしろ拍子抜けした感じだ、最初からクロウリーやアーサー王に殴り掛かられるぐらいには警戒していたのだが……どうやら相手側は油断しているか、よっぽどの自信をお持ちらしい。
ひとまず周囲の安全確認は済んだ。誰も居なくなっていない、敵もいない。
「油断するな、いつどこから攻撃が来るか分からん」
リュウの厳格な声に目を覚まされた。そうだ、この油断のせいで僕の腕は切られ、ココアさんは連れ去られた。……同じことを二度繰り返してはいけない、それが失敗であるならば尚更だ。
「ココアさんは何処にいるのでしょうか。見渡してもただの平地です……」
『そこら辺の案内は、俺に任せてもらおうか』
聞き覚えのある声が後ろから聞こえる。そこにいたのはなんとフロッツさんだった。しかも、生身。生き生きとした肉体、幽霊なんてあやふやな存在ではない……肉の体を持った人間が、そこに立っていた。
「なんで……フロッツさん」
『そんなに驚くなよ。よく考えてみろ、ここは「アヴァロン」……言わば死者の国だ、俺も始めは驚いたが、考えてみれば辻褄が合う……何より、これでようやくお前を助けられるって訳だ』
「もう一人じゃないからな」。フロッツさんは、僕の耳元にそう言った。いつの間にかこんなに心配させていたのだろうか……もしかしたら母さんも、笑いながらこんな気持ちで僕を見ていたのだろうか。
『俺の後ろに列を作って歩け。お前らには見えないかもしれないが……囲まれてる』
そして同時に僕は感じていた、視線を。明らかに只者ではない、しかし目に見えない存在からの、殺意を。




