第百五十九話
どうやら僕は三日間、大学の保健室で寝ていたらしい。
「……」
家路に付きながら、アヤマ先生と交わした会話を全て思い出した。この三日間の間でいろんなことが起きた……件の襲撃による「キャメロット大学」の長期臨時休校。「不滅の魔術師」マーリン及び教師陣の説明責任は山ほどあり、無事だった先生方は対応に追われているそうだ。
それだけではない。今回の襲撃の主犯格が、なんとあのアーサー・ペンドラゴン……生きていたことも驚きだが、まさか自分の古巣を襲撃してこんな騒ぎを起こした。伝説に語られる正義の王とはまるで違う。
そして協力者、あるいは初めからこういう計画だったのか? シン・ディザスター改め、災厄の魔猫キャスパリーグ。彼は「血界」を容易く破り、僕の腕を吹っ飛ばした……らしい。ある瞬間からあまり覚えていないのだ。
……最後に、ココアさん。
腹をシンに貫かれ、意識を失った状態のまま「瞬間移動」の「魔法」で消えたんだとか。正確な安否は不明だが、アヤマ先生の見立てでは「絶望的」だそうだ。
(……僕のせいだ……僕が、もっとシンに目を付けていれば……)
悔やむ事ばかり頭の中にあった。『幽霊車』がやってきても、僕は上を向くことができなかった。
『クソ塗りたくったような顔だな』
「……」
フロッツさんは中々に厳しい顔をしていた。何か言おうとして……でも、やっぱり飲み込んで、いつも通りニッコリ笑って。
『よぅしわかった! 喜べ「無の魔術師」、今日はお前を素敵な場所に連れてってやる!
お前の友達も一緒になぁ‼」
いきなり高いテンションで喋りかけられても困る……軽い会釈の後、僕は奥の座席に向かった……あれ?
「パーシヴァル……さん?」
「良かった……目が覚めたんですね!」
ホッと胸を撫でおろすパーシヴァルさん。いかんいかん、けしからん目線を向けては……咳払いしてから横を見ると、そこにも見覚えのある二人がいた。
「……無事で何よりだ」
「よぉ、腕はちゃんと治ったか? よしよし……」
アキレスとリュウが座っていた。あれ? 学校は休みのはず……ってか、二人が乗る『幽霊車』の運転手はフロッツさんじゃなかったような。
「えっと、あはは……もしかしてみんなでお見舞いに来てくれたの?」
「それはついでだ。……とにかく座れ、病人が立ち話をするな」
やけに棘のある親切をリュウから受け取り、僕は苦笑いのままパーシヴァルさんの席の隣に座った……あれ、何で僕、隣に座った? 汗かいてないよね……?
『うっし、皆座ったな? ――お嬢ちゃん、本当にいいんだね?』
「もう覚悟は決めました」
フロッツさんの厳しくも、「分かった」という深い頷き。直後『幽霊車』は動き出し、景色は一気に様変わりしていった……なんだかみんな張り詰めた感じだ。
「……ねぇ、フロッツさんが言ってた素敵な場所って……」
「そうそう、大事なことを言うのを忘れていました。今回私たちは遠足に行きます」
は、はぁ。遠足……。何となく会話をちょん切られた感じがするがまぁいい、パーシヴァルさんの話は続いた。
「持ち物は食料、水、適当な「魔具」……あと、杖と武器ですね」
「????? あの、行き先は……?」
パーシヴァルさんはここぞと言わんばかりに両腕を広げた。リュウとアキレスはため息をつきながら、それでも厳しい顔で目を逸らしていた。
「この『幽霊車』の行き先は『アヴァロン』の裏側。そして遠足の最終目的……いいや作戦。その名も『ココア奪還作戦』です!」




