第百四十四話
「よぉ」
焼け焦げた芝の上に立つ、自分に向かって狂気的な笑みを向けて来たそれは、人間と表すには余りにも野生が溢れすぎていた。
金色の鱗、角や爪などと言った風貌……人の形をしてはいるが、竜などと同じ権能を持った「魔法動物」だ。……しかも、最上位の。
「何だよヒトの体ジロジロ見て。どうせなら綺麗なおねーさんに見られてぇんだけど」
「それは非常に申し訳ないな。加えて申し訳ないのだが、そのまま後ろを向いてまっすぐ歩いてくれないか? こんな見た目だが、私は曇りよりも晴れの方が好きでね」
金の杖を揺らす準備をする。相手がいつ襲い掛かってきても「魔法」を使えるように……それから、いつでも自分の身を守れるように。
「あーはいはいそうですかぁ……悲しいねぇ。――んじゃあ、いつでも空が見えるとこに送ってやるよ」
懐に潜り込まれた。防御をするにしても「魔法」を使うにしろ、間に合わず私の鳩尾に拳が突き刺さった。貫かれるような痛みが走るが、幸いまだ意識はあった。
「終わりじゃないぜぇ?」
――――――。なー、にが。おきた? かみなり? 雷が流れた、拳から直接体に流された。思考がまとまらない、次の一撃が来る。
「よっこいせぇ!」
胸ぐらを掴まれ、宙を舞うような感覚から叩きつけられるような感覚へ。雷のせいか、体が痙攣している……思考がまとまらないこの状況で「魔法」は使えない。
「なんだなんだ? いきなり堂々と出て来たかと思えば……クッソ弱いじゃねぇかよ。ほんとにお前ここの教師か?」
最悪だ、鼓膜が破れている。体中が滅茶苦茶だ……強すぎる、もはや「魔法動物」に収まらない、こいつは「聖獣」なのか? だとすれば、私が想定している何倍も最悪だ。
「……チッ」
不満そうな顔をしたそれが視界から消えた直後、私の意識は急激に沈んでいった。




