第百三十七話
「彼らにかかっている呪い……それは即ち、「魔法を殺す」というものだ」
「獺」は紅茶を注いだカップと一緒に座り込んだ。腕を組み背もたれに寄り掛かる姿は、いつ死んでもおかしくない老人そのものに思えた。
「体全てに呪いが掛かっている訳ではないけどね、あくまで体の中の血にかかっているんだ……そして彼らの呪われた血に触れた「魔法」は例外なく、文字通り無に帰す」
「……理解ができないな、仮にそんなものが存在するとして、何故それが世界に公表されていないんだ? 人類の歴史に最も奉仕してきた概念である「魔法」を、真っ向から否定するような種族が……糾弾されない訳が、無い」
思わず自分の口を押さえたくなった。一般論で言えばそうなんだろう、でも僕自身……そんな事があってはならないと思っている。どうしようもない身体的な問題でそんな仕打ちを受ける事なんて。
「……消そうとしているのだろうね、彼ら「呪いの子」を」
「獺」は少し苦い顔をして紅茶を啜った。
「君も分かってはいるだろうが、『「魔法」が使えない』というレッテルはこの世界に置いて最悪の不名誉だ。加えて「魔法使い」……いいや「人間」という生き物は無駄にプライドが高い。「魔法」が使えない彼ら「呪いの子」を見下すのは必然と言えるだろうね……君が、「無の魔術師」にやったように」
「五月蠅い」
僕は、今この瞬間何も考えずに「獺」を睨んだ。彼の機嫌一つで自分は化け物共と戦う羽目になるというのに……客観的な視点では唾を吐き、人道的な面ではとてもじゃないが自己満足だった。
「そうそう、「無の魔術師」という表現は間違っている……これは君も知らないかもしれないが、彼らは自分の顔を鏡で見ることができない……体に流れる呪われた血が魔力を相殺しているため、顔面が鏡に映らないんだ」
先程よりもにこやかに、しかし威圧感を以て「獺」は言った。
「彼らの新の名は「無面の魔術師」。遥か昔、キリストを裏切りその末代までを呪われたユダの子孫たちの、唯一の称号にして汚点だよ」




