第百三十二話
「渡したんだね、彼に」
ルナに平手打ちを貰った。容赦ない一撃だ、保健室に乾いた音が大きく響く。
バランス感覚のいい僕がふらつくのは珍しかった、そのままクスリやら何やらが入っている戸棚に倒れ込み、頭を打った。
「ル……ナ、待って」
「こっちくんな!」
病人の居る部屋で放つ声の大きさではなかった、足音は保健室の木の床から廊下の石の床の物に代わり、遠くで鳴り響いている。
「……ココアさぁん、だぁいじょうぶですかぁ?」
布団にくるまったままのアヤマが話しかけて来た。僕はふらつきながら壁伝いに立ち上がり、軽い返事をした。
「平気さ、僕がこれしきの事でどうかするとでも思っ
「貴方じゃありません、この子の事です」
アヤマは、僕を見ていなかった。ベッドに横たわるホーエンハイムに薬を塗り、「魔法」をかけ……それをもう何十分も繰り返している。
「慢心するわけじゃないですけど、僕の回復の「魔法」は中々な腕前のはずです。悪くても二、三回「魔法」をかけてあげれば元気になるのが普通なんですよ。でもこの子は回復するのが遅い、治るまでの時間は体質にもよりますが……これはもう「受けたダメージが相当な物だった」としか思えません」
「……仕事を思い出したから、そろそろ僕は。二人を頼みましたよ」
横たわった二人に背を向ける。
「あなたがもしも生徒を危険に晒そうとしているなら、ルナちゃんは今度こそ、貴方を嫌いになると思いますよ」
「ご親切にどーも」
廊下に出てすぐ、僕は壁に拳を叩きつけた。




