第十三話
家から出て少し歩いた先、そこには『幽霊車』が通っていた。
毎日決められた時間、決められた数が通るそれは、人の足で数時間掛かる道のりも、幽霊だけが使える『霊道』を通ればあっという間に到着することができる便利なものだった。
一見、人を襲ったりするイメージがある幽霊だが、それは主に恨みや複雑に絡んだ未練を持ったまま死んだ悪幽霊の話であり、ほどんどの幽霊は目に見えず、見えたとしても我が強い善良な変人がほとんどである。
「あっ、来た」
ぼやけた赤いバスがやってきた、運転席に乗っている、次の行き先を示す幽霊インコが鳴いている。
『次は~『キャメロット大学』~『キャメロット大学』~』
僕は手を挙げ、自分は客だと言う事を『幽霊車』に示す。すると、待ってましたと言わんばかりに『幽霊車』は僕の目の前に留まり、ガシャンとドアが開いた。
『やあいらっしゃい「無の魔術師」さん? おおっと、『キャメロット大学』の制服を着てるってことは……合格したのかい?』
「はい、受かるとは思ってなかったんですけど……なんか受かっちゃいました」
ニタニタと笑う『幽霊車』の運転手、こちらは母が学生の時の友人のフロッツさんだ、若くして才能もあったが、魔法動物の授業の時、ドラゴンの爪にやられて死んでしまったのだ。
『そりゃあめでたいな! だがキャメロットってのはブリテン島にあるんだろ? ドラゴンがいっぱい住んでるって噂で、おじさんブルブル震えちゃうなぁ』
笑えないジョークと共にフロッツさんは運転席に戻った、僕は慌てて。
「あっ、お代は……」
『合格祝いだ、客は今お前とあそこの別嬪嬢ちゃんだけだしな』
そんなのでいいのかと言いたかったものの、貧乏な家の生まれの僕にとってはありがたかった。僕は黙ってお辞儀した。
(ってか、別嬪さん?)
僕とフロッツさん以外に誰かいるのか? そう思い車内を見渡すと、そこには確かに綺麗な女性がいた。
真っ白な肌に腰当たりまである白髪、エメラルドの色をした瞳、礼儀正しそうな唇。美しく整った顔立ちは人形のようで、上から下より、下から上へと見て行った方が、この少女の美しさが伺えた。
よく見ると『キャメロット大学』の制服を着ていた、しかも自分が着ているような「通常」の制服ではない、――選ばれた十三人の『円卓』の合格者しか選べない制服だった――。
制服の色はシンプルだった、動きやすそうな太ももの半分まである赤いスカート、上半身は『キャメロット大学』の紋章が入った白いセーラー服を着ていた。
彼女が『円卓』の合格者だという事よりも、その美しさに見とれていた。『幽霊車』は僕をたたき起こすように、大きくぐらりと揺れ、出発した。
行き先はブリテン島、アーサー王伝説が繰り広げられた島だ。
『幽霊車』
ご察しの通りこの世界で言う所のバス、お金の代わりに目的地までにかかる時間だけ、利用者の寿命を奪う(奪うか奪わないかは運転手である幽霊次第)
霊道を使うため、たまに死んだ知り合いに会うこともある。(むしろ会いに行くこともできる)
『円卓』の合格者
毎年十三人しか選ばれない特別な合格者に与えられる称号、学校内で円卓の騎士の名前を名乗る事が許される。(ちなみに『円卓』の合格者の実力は「魔術師」に匹敵する)




