第百二十話
「今日分かったことをまとめてみようか」
午後七時、僕はおぼろげな意識を叩き起こしながらココアさんの話を聞いていた。
「まず一つ、君の血は「魔法」を無力化する。これは「魔法」という現象を、魔力というただのエネルギーの状態に戻す性質である」
そうだ、僕の血にはそういう性質があるんだった。魔力のままでは現象は発生しない。「魔法」として昇華させることにより、火を出したり傷を癒したりできる現象が生まれるのだ。
僕の血には、「魔法」を魔力の状態に戻す力がある。そのため、血に触れた面積から「魔法」は魔力に戻っていくのだ。
「ただしあくまで「触れる」ことが発動条件のため、肉体強化が主な「気功の魔法」などにはほとんど無力だね」
そう、この血の効果は「魔法」に触れることにより発揮される。肉体のあらゆる個所を強化する「気功の魔法」には効果が薄い。一瞬だけなら触れた個所の「魔法」を無力化できるが、衝撃やダメージはそのまま来るためほぼ意味が無い。
「次に二つ、君の血は酸素と結合すると硬度が飛躍的に上昇する。「魔法」を無力化する性質はそのままに、鋼なんかよりもずっと丈夫な金属になる」
放置していた血の塊が、やけに丈夫だったことで気づいた。空気中にあるという酸素と混ざる事で、異常なまでの硬度を誇り、尚且つ「魔法」を無効化することができる。
ただし。
「時間経過で酸化、つまり別の物質になってしまう訳だね。残念ながら酸化した君の血は、一旦酸素と結合した状態とは程遠いものになっている。少し触るだけで崩れ、「魔法」を無力化する性質も失われている」
酸素と結合してから、完全に酸化するまでは大体三時間ほど。試行錯誤の結果、現時点ではこれ以上の酸化遅延は見込めない。
酸化した後の血は、瓶に詰めて炭素と一緒に加熱すれば元に戻った。この性質を利用する手もあったが、加熱時に必要な温度が70度近かったので、肌に触れる「鎧」に組み込むのは少なくとも無理だ。
「とまぁ、この二つの事が今日だけで分かったわけだホーエンハイムくん。どうだい? 今の気持ちは」
「……正直、吃驚しすぎて頭の中が滅茶苦茶です。いったん家に帰って、色々考えて整理しようと思います」
「それがいい、睡眠は一日の情報をまとめてくれる大事な人間の三大欲求だからね」
僕は片付けがあるから、そう言ってココアさんは散らばっている実験器具や本を片付け始めた。僕は積み上げられた錬金術の本を宿題としてカバンに詰め込んだ。
「それじゃあさようなら、ココアさん」
「ああ」
「科学部」の扉を開け、僕は部屋から出て行った。
手には、自分の誇るべき鮮血がべっとり付いていた。
(……まだ、歩ける)
ふらつく意識に鞭を撃ちながら、僕は歩いた。




