第9話 ファナ
この村が出来てから約4年、俺が生まれた当初はまだ村もそんなに大きくなく、家の数も少なかった。だが今は開拓が進み、村も当初より3倍ほど大きくなり、村の人口も増え、市場も出来た。それに前は村の外に出させてもらえなかったが、最近では村の外も安全になってきて、村の近くであれば遊びに出れるようになった。
そして今日は初めて村の外に出て特訓をすることになった。特訓は前まではルミエが付き添ってくれていたが、最近は忙しいらしく1人で特訓することが多くなった。だが今日は俺だけではなく、2人で特訓することになった。特訓というよりは俺が面倒を見てるようなもんだ…。
「ライト… お外こわい…」
「大丈夫だよ、俺が一緒にいるから怖くないよ、ほら手繋いであげるから」
「うん…」
そう。ゴルドさんとクリスさんの娘のファナだ。ファナは人見知りで家にいることが多いらしいが、ゴルドさんがそれを心配したらしく一緒に外で遊んで欲しいと頼まれてしまったのだ。正直特訓の邪魔ではあったがファナは戦闘系のユニークスキルを持っているらしく鍛えれば、いい練習相手になると言われてしまったのだ。どの程度なのかは分からないが興味もあるので取り敢えず引き受けてみた。
「初めてお外来た…。とても綺麗…」
「そうだなぁ」
村の外は草原が広がっており、近くにはお花畑も広がっていた。とても綺麗だ。
「ファナ、俺は特訓しに来たんだけど、ファナはどうする?」
「私もやる…、ライトと一緒がいい…」
「分かった、でも疲れたら休んで見ててもいいからな」
「うん…」
(なんか分かんないけど随分懐かれたな、まぁ一応同い年だしな)
「じゃあファナ、ファナのステータスを見してくれないか?」
「分かった…」
「『ステータスオープン』」
【名前】ファナ 【年齢】3歳
【レベル】1 【職業】無し
HP : 29 MP : 6
【体力】11 【筋力】9
【速度】9 【耐久力】6
【器用】10 【知能】20
[ユニークスキル]
限界突破Lv1
[スキル]
無し
[職業専用スキル]
無し
[ユニークスキル]
限界突破Lv1 6/10000
自分の限界を超えた力を発揮することができるスキル。
・スキル使用時、全ての基礎能力を1,5倍にする。
消費MP1秒につき1 クールタイム60分
(ま、まじか…これ強すぎじゃね?今はそうでもないけどステータスが伸びれば絶対に有効なスキルだ。ジャンのユニークスキル剛力は【筋力】だけを1,5倍にするスキルだったことに比べれば遥かにすごいスキルだ。でも1秒で1魔力消費だからなぁ、もし俺がこのスキルを持っていればめちゃくちゃ強くなれたかもな)
「ファナ、ユニークスキルは使ったことある?」
「うん… 1回だけ使ったことある」
(なるほど、スキルレベルは回数ではなく魔力量に応じて上がっていくのかな、6/10000になっているから多分そうだろう。魔力6かぁ、多分特訓しなくても自然に魔力量は増えるんだろうけど、でも流石にこの魔力量じゃ少なすぎる、ファナにも魔力増強の特訓法教えてあげようかな、それにしてもレベル1つ上げるのに魔力10000使うのかぁ、俺は初め1000だけだったんだけどなぁ…。)
(多分レベルがいくつになっても消費魔力1だからレベル上げるの大変だろうと思ったんだろう、まぁレベル上がっても変わるのはクールタイムだけで威力は相変わらずなんだけどね…)
(まぁそれはさておきまずは普通に特訓始めるか)
「じゃあファナ特訓始めようか」
「うん、がんばる…」
それから主にダッシュや筋トレ、ランニングをしたが、ファナがついてこれるわけもなく、すぐに休んでいた。
(練習相手になる日は当分先だな、今日のところはユニークスキルの有用性を知ってもらおうかな、はぁ羨ましい…)
「ファナ、競争しよう!」
「私おそい…」
「ファナはユニークスキルを使っていいから」
「ユニークスキルを使うと速くなるの?」
「うん!だから競争してみよう!」
「うん〜…分かった…」
距離にしてだいたい30メートル、ユニークスキルが6秒しか使えないためこのくらいの距離にした。スキルを使ったとはいえ、まだ俺には勝てないが、毎日やれば抜かされるのも時間の問題だろう。
「よーい、どん!でスタートね」
「よーいどん?」
「うん、よーいで走る準備して、どんって言ったらユニークスキルを発動してスタートだよ、できる?」
「うん、たぶん大丈夫」
「よし!じゃあいくぞ!」
「よーい…… どんっ!」
俺はあえてファナが走り出してからスタートした。ファナはユニークスキルを発動すると、全身に光を纏っているような状態になり、なんとも神秘的だ。それに、明らかに速くなっているのが分かる。本当に良いスキルだ。
でもまだまだ俺の方が早い。俺はすぐにファナを抜き去りゴールした。ファナがユニークスキルを使った状態でも【速度】のステータスは俺の方がまだ2倍ほど高い。まだまだ女の子には負けていられない。
「どうだったファナ?」
「ユニークスキルすごい…いつもより速く走れた!でもそれなのにライトに勝てなかった、ライトのほうがすごい!」
「俺は鍛えてるからな!」
「私もがんばる!」
「ライトのユニークスキルってどんなスキルなの?」
「こんなんだよ…、ピリッ…ピリッ…ピリッ…」
「わぁ!小ちゃい雷さんだね!私もそれが良かったなぁ」
「いや…、これ良くないから…、これハズレだから…」
ユニークスキルのことはさておき最初は人見知りの影響であまり元気がないようだったけど、ファナともだいぶ打ち解けることができたようで良かった。
そのあとは一緒に持ってきたお弁当を食べて、お花畑や近くには池や林があったので探索をした。最後にファナには1日4回ユニークスキルを使うように言って解散した。ちゃんとやってくれるかは分からないがこの1日でだいぶ信頼されたのでやってくれるだろう。
今はだいたい午後3時と言ったところだ。流石の俺もまだ3歳なので、1日動き続けるほどの体力はまだ無い。だが、今日はファナを家まで送り届けたあと、再び村の外に行き、次は木が沢山ある林のほうに向かった。
「この大きな木でいいかな、気をつけないと怪我するかもしれないなぁ。痛覚耐性があるからこそ無理をしてはいけないな。」
そう俺がやろうとしているのは【耐久力】【器用】の底上げだ。
まず【耐久力】を上げるために自分を痛めつけないといけないと思った俺は木を殴ったり蹴ったりすれば自ずと【耐久力】が上がるのではと考えたのだ。そして、木に目印を幾つかつけてそこに向かって蹴りや突きを入れれば身体のコントロールができるようになり、【器用】が上がるのではと考えた。また、あわよくば格闘術などのスキルが得られれば儲けもの。
そう。
これは一石三鳥のトレーニングなのだ!
「よし、やってみるか!」
「おりゃっ!」
「痛ってぇ〜痛覚耐性があるとはいえそこそこ痛いな。あぁ…拳から血が出た…。やっぱり痛覚耐性があると自分への加減が難しいなぁ…。蹴りメインでやろう…」
そして俺はその後1時間みっちりやった。手や足がぼろぼろではあったが、ステータスが1ずつ上がっていたので痛みよりも嬉しさが優っていた。
家に帰るとルミエが手や足から血を出している俺を見て泣き出してしまい、抱きかかえられて急いで診療所に向かった。だが、途中で仕事帰りのジャンに会い、傷薬をもらって傷を治すことが出来た。
怪我をした理由を言うと、ルミエにこっ酷く叱られてしまったのだが、これからも強くなるためにはなんとしてもこの特訓を続けていきたい。
なにか良い案がないか考えていると、ジャンが傷薬をいくつか買ってきてくれることになった。
これにはルミエも黙っていられず反発してきたが、ジャンがどうにか説得してくれた。ジャン達が遠征をするときは特訓を控えるようにと言われたが、そのくらいなら大丈夫だ。
それに、万が一のことがあるかもしれないからと木剣もくれた。そして、時間があるときは剣術を教えてくれるようになったのだ。
前世が母子家庭だった俺には、父親になにかを教わるというのはとても新鮮でとても楽しい出来事だった。