〜12.
穴があったことに気付かなかったからこそ、それは計算の穴と言えるのだろうな。目の前で標的を護衛しようとする弟の存在に、何故俺は今まで意識を向けていなかったのだろう。
まぁいい。弟がサイボーグだとしても俺のすることは何も変わらん。
「館山ミカン、紹介が遅れたな。俺は武内ヤナギ。お前と同じサイボーグだ」
「……僕をどうする気?」
「決まっているだろう。殺す」
俺が今ここにいる理由だけではない。俺の生きる理由そのものがお前の抹殺という任務なんだ。お前を殺せないのなら俺は生きていても仕方がない。そう育てられてきた。
「兄ちゃん。ミカンは絶対に殺させない!」
「ほう。お前に何ができるというんだ?」
「だから言っただろ! 俺だってサイボーグだ!」
「俺に適うほどの力を持っていると?」
「もちろんだ」
「誰に改造されたんだ? 義父はお前に手を付けていないと思うが」
「自分で自分を改造したんだよ」
――自分で自分を? 馬鹿な。何故そんなことをする必要がある。自分がサイボーグであるばかりに人生を台無しにされた俺をそばで見ているはずのコイツが何故? 一体何を考えている。
「父さんは頭がおかしいんだ。僕と母さんに気付かれていないと思っているだろうけど、毎日のように兄ちゃんに『人を殺す為の訓練』をさせてた。もう何年もずっとでしょ?」
「ああ。だからなんだ? 俺は俺の意思で動いているんだが」
「……爆弾、埋め込まれてるんでしょ?」
「……何故そこまで知っている」
俺の体に埋め込まれた爆弾は、義父の持っている起爆スイッチを押せばたちまち爆発する。サイボーグとは言っても人間の肉体がベースだからな。ひとたまりもないだろう。
「ナズナ、今のうちに設計書取りに行こう」
「……隙があればいいのだが」
館山ミカン、お前は逃がさんぞ。義兄弟を蹴散らしてでも、いや、今は義兄弟などではなく一人の敵だな。この場で3人とも殺してくれよう。邪魔をされるのだけは気に食わないんだ。