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〜11.

 

 食えない奴だ、武内スイレン。奴が事件に何も関係ないはずがない。理由もなしにミカンに近づき、いじめ相手から庇い、私に殴られても怪しいところを見せない。

 よほど頭のキレる奴なのだろうか。あやつが敵だとすれば、サイボーグである可能性も非常に高いのだが、現時点では全くその片鱗を見せん。


「ナズナ、今日も特訓?」

「当たり前だ」


 そもそも、授業を終えて今こうして帰宅している間に命を狙われてもおかしくはない。敵がこちらの居場所をどこまで嗅ぎつけているかもわからぬこの状況では、常に警戒をしなくてはいけないのだが、今のミカンに警戒をしろと言っても無理なことであろう。

 今ようやくミカンの精神状態が整い、身体能力も65%程引き出されている。まだまだ戦える状態ではないが、逃げ回ることはできるだろう。能力が覚醒すれば、どれだけの力が見えるのか。


 何より困るのは覚醒のスイッチが見つからないことだ。設計書にも発動条件は記されておらず、『各機能状態良好にしてその足進めしとき力が解き放たれる』としかない。


「あ、そういえばあの設計書もう一度見直したんだけどさ」

「ふむ」

「裏面に書いてあったことがなんだか気になって気になって」

「……裏側?」

「うん。『能力装置77MPTについて』っていう短い文が……」

「何故もっと早く言わんのだ!」


 一生の不覚。まさか両面印刷だとは……。その内容を確認すれば、すぐにでも覚醒まで辿りつけるかもしれん!


「ミカン! 急いで家に戻るぞ!」

「え? あ、うん!」


 館山家まであと10分というところで足を早める。今日中に、遅くとも明日には自由自在に能力を使いこなせるようになっておきたい。


「ミカン! 設計書の内容は覚えているか?」

「まぁ、ちょっとは」

「内容を教えろ!」

「えっとね、確か……」


 ミカンが言葉を発した瞬間、駆け足の私たちの間を後方から人の頭ほどの大きさの物体がとてつもない速さで抜けた。


「え……」


 その物体は正面の塀に突き刺さり、その場に転がり落ちた。


「……バスケットボール?」

「くそ! ミカン! 逃げるぞ!!」


 これからというときに来てしまった。こんなタイミングで襲われるとは、運が悪い……!

 塀を砕いたボールを見てミカンも気付いただろう。登校時に見た光景を思い出しただろう。


「武内スイレンだ! 奴が襲ってくるぞ!」

「そんな……!」

「とにかく逃げろ! 急いで設計書を取りに戻るぞ!」


 急げ、急げ!

 ここで奴に立ち向かうのは命を捨てることと何も変わらない!

 ミカンの眠れる力を呼び起こす為に、あの設計書を読まなくては!!


「ナズナ! 危ない!」

「くっ! またか!」


 背後からまたしてもバスケットボールが飛んできた。日常生活では決してありえないスピードで飛んできていることは言うまでもない。あんなものを食らったら、並大抵の人間はひとたまりもないだろう。


「家の壁が粉々に……! やばいってナズナ!」

「あと少しで家に着く! 飛んできたならかわせ!」


 ミカンの肉体ならまともに受けても大丈夫だとは思うが、何か仕掛けがあるかもしれん。それにしても姿を見せないとは、なんという奴だ。

 そう思うが一瞬、焦る私たちの前に立つ1人の人間が目に映った。まずい。先回りされたというのか……。


「ス、スイレン君……」

「武内スイレン! やはり貴様か!!」


 脇に抱えたバスケットボール。おそらく一つではないのだろう。この至近距離で正面からそれを放られて、かわせるだろうか……!

 くそ、まだまともに戦闘できる状態に仕上がっていないというのに、もう戦うときが来てしまったというのか……。いや、こうなる可能性は十分に考えられた。私の計画に狂いがあったんだ……!


「2人とも! 逃げるぞ!」

「……え?」

「ミカンは青木を背負え! その方が早い!!」

「な……」


 逃げる? 貴様が私たちと逃げてどうするというのだ?


「こっちだ!」

「わかった!!」


 ミカンは武内に言われるがままに私を背負い、奴が走る後を追う。どういうことだ? ミカン、貴様騙されていないか……? 敵は奴なんだぞ!


「おいミカン!」

「なんだよ! 走るのに必死なんだけど!」

「何をしている! 武内から逃げるぞ!」

「スイレン君は敵じゃないよ!」

「馬鹿が! あのボールは間違いなく奴のものだろう!!」

「危ない!」


 3つ目のバスケットボールが頬をかすめた。後方から飛んできたボールに対し、奴は私たちの前方で誘導の真っ最中。まさか……武内でなければ誰だと言うのだ!


「ミカン! そこの広い公園に逃げ込むぞ!」

「わかった!!」


 強化筋力によって人間離れした足の速さを持つミカンと同じスピードで走っているなんてことがありえるのか? ありえるはずもない! 敵でなければ貴様は何者なんだ!




「……ボールは飛んでこねぇな」

「う、うん……」


 茂みに隠れ、周囲の気配を窺う。しかし、まだ明るい時間帯だということもあり、あまり長く身を隠せるような場所ではない。少し息を切らしたミカンの呼吸で相手に居場所が伝わるかもしれん。

 それにしても、短い時間で随分遠いところまで来てしまったものだ。ここから館山家までの距離が長すぎる。


「おい武内。何の真似だ」

「何って、助けに来たんだよ」

「助けに? 貴様何者だ?」

「……言わずともすぐにわかるさ」


 何が言いたい。やはりこいつもサイボーグか? だとしたら、敵であることはほぼ間違いないではないか。人を改造するというグレーゾーンの開発は、あの研究所でしか行われていなかったはず!


「スイレン君、やっぱり僕が狙われてるんだよね?」

「ああ。色々理由があって、助けに来た」

「理由とはなんだ。貴様どこまで知っている?」

「今はそれどころじゃないだろう? ところでミカンの力はどこまで引き出せるんだ?」


 ――そうだ、設計書の内容!


「ミカン、設計書の内容を覚えている範囲で言え」

「確か、身体能力が能力に耐えられる程度まで上がらないと能力は発動しなくて……」

「発動の条件については?」

「えっと、何とかの向こう側とかメモリを共有できるとか……その辺は難しくてよくわかんなかったんだけど」

「……よくわからないな」

「ごめん」


 もっと早く気づいていれば……。しかしまだ可能性はゼロではない。メモリを共有と言ったな。誰か他の人間と共有して発揮する力なのか?


「……まずい。近づいてきている」

「敵の動きがわかるのか?」

「ああ。俺だけしかわからないとは思うけどな」

「……?」


 武内の顔に汗が滲んでいる。私の鼓動も異常なまでに大きな音を立てているが、動揺してる場合ではない。ミカンをまともに戦わせるために、少しでも考えるんだ。


「ナズナ、なんかこの辺が赤く光ってるような……」

「しまった! よけろ!」

「うわっ!」


 赤く光るレーザーを当てられたように照らされた地面に穴が開く。立ち上る煙と、異常な熱気。これが敵の仕掛けた攻撃というならさすがに太刀打ちできない!

 武内に掴まれて茂みから飛び出し、公園の中心に出る。辺りを見回しても、敵の姿は見えない。一体どんな奴に狙われているというのだ……!


「ナズナ! アイツだ!」


 ミカンが指さしたのは公園の大樹の上。そこに立つ怪しげな人影は、木の上からこちらに飛び降りてきた。

 

「……」


 目に生気が宿っていない……。サイボーグでなく、アンドロイドか?


「何故お前がここにいる……弟よ」


 私たちを狙うその人物は、確かにそう言った。弟? まさか……コイツが武内スイレンの兄?


「ミカン、青木。これは俺が止めなくちゃいけないんだ。兄ちゃんは俺が救う。お前らも俺が助ける!」

「スイレン君……」

「俺は、館山ミカンを殺しにきたんだ。スイレン、お前はどいていろ。邪魔だ」


 兄弟揃って急に現われて、今度は兄弟で戦うつもりなのか? 一体これはどういうことなんだ。この隙にミカンを逃した方がいいのだろうか……?


「友達を死なせたくない、兄弟に人殺しになってほしくない。だから俺が止める」

「お前、俺がサイボーグだってわかって言ってるのか?」

「ああ。だけど、俺も兄ちゃんに負けないぐらいサイボーグだ」

「……何?」


 武内スイレンがどれほどの力を秘めているのかはわからないが、足止め程度にはなると見よう。今のうちに……。


「逃がすか女!!」

「くっ……!」


 一瞬にして回り込まれたが、同じ速さで武内スイレンも私の前に立った。


「青木! もう逃げ場はないんだ! 早くミカンの力を!」

「しかし、その為には設計書を見なければならんのだ!」

「そんな時間はもうない! 頭を働かせて覚醒に導くんだ!!」


 だが、そんな簡単に覚醒なんかしない……! 武術すらまだ満足に会得できていないというのに!


 私の計算に穴があった。もっと急ぐべきだった。まずい。どうにかしないと!


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