好きの伝え方
住んでる場所も世界も違う彼だったけれど、それでも魂の繋がりというのは面白いもので、元々生まれ育った場所は近くだった。
そして好きな食べ物も似ていて、好物談義に花が咲くのも早かった。
コソコソ付き合う仲だったし、遠距離ということもあって、唯一繋がれたのはメールと電話。電話も彼の深夜の仕事の休憩時間だけ。
それでも優しい彼は、奥様のいない昼間にすぐ連絡をくれて、お電話することもあった。
なので長い時間話すことは叶わないけれど、それでもそんな短い時間で語り合う会話が楽しくて、いつも知らないことを話してくれるので、必死にメモを取っていた。
彼はある音楽グループが好きで、その曲の歌詞に沿って気持ちを伝えてくれることがあり、改めてかっこいいなぁと、頭の中がお花畑の私。
けれど今までの人生で触れることもなかったグループだった為、必死に聞き回ってみた。
その中でも、すごく真剣に話してくれる曲があって、他の曲はとても難しかったけど、それだけは何故だかとても美しくて、何度も何度も聞いていた。
素直に『好き』と伝えてくれますが、それでも深く深く伝えたい時に聞かせてくれたその歌詞の中に
ただの石ころだけど必死に磨いてお前にやる
嘘偽りなくずっとそばに居る、ずっと……。
話し上手な彼ではありましたが、こと恋愛になるとオレオレが先立ってキツくなる人。だからなのかこれこそ上手に伝えてくれてるな、本気なんだなって物凄く感じて、私もこの人にどんな恩返しができるか、これ程までに想ってくれる彼に何ができるか、それを考えるのに必死で、その必死な時間が楽しくて、いつも彼を待ちわびていた。
『絶対迎えに行くから』
その言葉を信じて、彼の言う事をなんでも聞くと決めたその日、なんとしてでも会いに行こうと決意したのです。
必ず電話が終わるとメールをくれること、電話でもメールでも必ず『好き』だと伝えてくれること。
たった2文字の言葉が嬉しくて、彼と出逢えたことに心底感謝し続ける日々。
彼の為に深夜2時3時は絶対起きていたし、彼の休みが大体固定だったので、私の休みも合わせる様に出勤方法も変え、いつでも彼の時間に動ける生活を続けた。
それが私が彼にできる唯一の行動であり、画面越し、受話越しに伝えられる恩返しだとも。
そんなことが半年ほど続いた頃、彼がいつもより真剣にお誘いをしてくれた日があった。
『いい加減、会えればいいのにな。会いに来られないかな』
彼との距離は飛行機、とまでは行かなくても、新幹線に乗らなければたどり着かないほどの遠距離。
ましてや私にとっては未開の地であったし、家庭を持つ身としてはかなりの無理難題。
どうしようか。どうすれば彼に会えるのか。
会えたとして、どうやって交通費や宿泊、その他諸々を捻出するか。
楽しい会話をしているにも関わらず、そればかり考えてしまって上手く会話にならない日、気づいているのかいないのか、いつもより楽しく会話してくれる彼の声に、結局、癒され慰められ、彼への恩がどんどん増えていく。
そんな時、彼が唐突に提案をしてきた。
電話でしてみる?
子どもな私はなんのことか分からなくて、即答ではい! なんて元気よく答えてた。
そこから少しずつ彼との関係が変わってきたのだった。