第7話 霊峰クルルス
歓迎会の次の日……
明け方にいつものように鍛錬をしているとシェリルさんが起きてくる。
「おはようございます」
「あ! 起こしちゃいました?」
「大丈夫ですよ。朝の支度です」
「そうでした……手伝います」
そう言ってシェリルさんの持つバケツを渡してもらう。
「昨日、聞きそびれちゃって今聞いてもいいですか?」
「なんです? 自分が答えられることならなんでも答えますよ」
「アイゼンさん以前に他のギルドに入られてたんですよね? こんなに強くて優しいのになんでうちのギルドなんだろうって。前のギルドの人がほっとかないですよ」
……嘘ついても仕方ないから正直に言うか。
「3年間修行に出たら前のギルドに俺の席が無かった、ただそれだけのことですよ。このギルドに入ろうと思ったのはここしか受け入れてくれるところが無かったからですかね」
「……アイゼンさん。私達はアイゼンさんがまた修行に行ったとしても席は絶対に空けて置きますから信じて下さい」
……マルフォイも同じこと言ってたけどな……
「分かりました。シェリルさんを信じますね」
この場では本心を隠してこう言うしかない。
朝の支度が終わり、みんな揃って食卓につく。
シェリルさんが口を開く。
「今日もギルド管理組合に行ってクエストを受注しますよ」
朝から教授が不機嫌な感じでシェリルさんこう言った。
「今日もクエストやるとか聞いてない」
「今、言いましたからね。昨日のクエスト報酬は昨日のうちにほとんど使ったので金欠なんです」
「もっと計画的に使いたまえよ」
「教授さんが調子に乗って色々頼むからこんなことになるんですよ」
「この頭脳を維持するにはお金がかかるんだよ。いいかねシェリルくん」
「維持するにはお金が掛かるのだったら今日もギルド管理組合に行ってクエストを受注しないとまずいですよ」
「……はいはい。今度こそ知的なクエストを頼む」
というようなやり取りをし朝食を終えて、皆でギルド管理組合に向かった。
シェリルさん達とクエスト掲示板の前に立つ。
「次のクエストはどうしましょう?」
色々なクエストが掲示されている。
「これなんかどうでしょう」
シェリルさんが指したクエストはクルルス山での薬草収集。
教授が難しい顔をする。
「シェリルくん。私は山登りは苦手なのだがね」
「今の時期、クルルス山の景色も素晴らしいみたいですし、行ってみたいと思いませんか?」
ニーナちゃんが頷きながら口を開く。
「……行ってみたい」
「俺も行ったことがないから行ってみたいですね」
俺達がそう言うと教授はちょっと考える素振りを見せたあとこう言った。
「……吾輩もクルルス山の生態系に興味があったところだから研究のついでについて行く。いいね」
「きまりですね!」
こうして次のクエストはクルルス山で薬草収集に決まった。
――翌朝、まだ太陽が東の空から顔を出そうとし始める頃。
「さあ。クルルス山に行きましょう!」
朝からテンションの高いシェリルさん。
半分寝ているニーナちゃん。いつもよりテンションの低い教授。この時間にはいても起きて鍛錬をしているから別に普段通りな俺。
こんなメンツでクルルス山行きの馬車に乗る。
「はい。朝ごはんお弁当です」
揺れる馬車の中でそう言ってシェリルさんはバスケットをからサンドイッチを出す。
「ありがとございます」
そう言ってサンドイッチを受けとる。
ハムと卵のオーソドックスなサンドイッチ。
「飲み物もありますよ」
馬車の揺れに苦戦しながら水筒から湯気がでているお茶をコップにそそぐ。
ほんとすごいな。シェリルさん一体何時に起きてるんだろ。
食事を摂りながらシェリルさんが話し掛けてくる。
「霊峰クルルス楽しみですね」
「そうですね。楽しみです」
「有名な詩人さんがその景色を見てあまりにも絶景にクルルスや、ああクルルスや、クルルスやという詩を詠んだぐらいですからね。どんな景色が広がっているんでしょうね」
教授が口を挟む。
「霊峰クルルスしかみられない生き物もいるらしい。実に興味深い」
ニーナちゃんはサンドイッチを持ったままウトウトしている。
「景色ばかりに気を取られて薬草の収集を忘れないようにしないといけませんね」
こうして食事を終え1時間ほど馬車に揺られ、馬車が止まる。
馬車の荷台から降りると目の前には頂上に雪を冠した山が見える。
「あれが霊峰クルルス」
俺はそう呟いた。
頂上の辺りを指差してシェリルさんが話す。
「薬草は頂上辺りの雪があるところにあるみたいですよ」
「へぇそうなんですね」
「厳しい環境で育った薬草だから効果も抜群らしいです」
「鍛えて強くなるってことなんですね」
「そうです。アイゼンさんと同じですね」
「確かに山に登って修行しました」
「頂上からの景色が絶景みたいなので、薬草も取れて一石二鳥ですね」
「二兎を追う者は一兎をも得ずという諺もあるがね」
教授が皮肉を呟く。
「大丈夫ですよ。教授さん。私って晴れ女なんで絶景間違いなしです!」
確かにクルルス山は雲一つない絶好の天気だ。
ということでクルルス山への登頂を開始する。
俺は勿論、大きなリュックサックを背負い他の3人は比較的軽装。
人が踏みしめて歩いた登山道的なものがあり、その道に沿って山を登っていく。
1時間程その道を登ると……
教授が歩くのをやめ口を開く。
「……休憩。休憩を所望する」
「そうですね。ちょっとお休みしましょうか。アイゼンさんリュックサックを貸して下さい」
そう言うとシェリルさんはリュックサックの中から水筒を取り出し、コップに水を入れる。
水の入ったコップを俺に渡してくれる。
「アイゼンさんどうぞ」
「ありがとうございます」
水の入ったコップを受け取る。2人にも同様に水の入ったコップを渡している。
「良かったですね。天気良くて」
「シェリルさんのおかげかな?」
俺がそう言うとシェリルさんはニコッと笑った。
15分程休憩を取ると再び歩き始めた。
教授がシェリルさんの方をじーっと見て口を開く。
「シェリルくんは晴れ女?」
「その筈だったんですけどねー」
シェリルさんは教授の言葉に苦笑いをする。
山の天気は変わりやすいとはよく言ったもので、1時間前まで雲一つ無かったクルルス山の天候は一変し、辺り一面霧に包まれている。
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