第6話 歓迎会
クエストを終え王都に戻った俺たちは報酬を受け取り、夕食のために近くの酒場にやってきた。
「ここです。クエスト報酬をもらったらここでご飯を食べるというのがうちの決まりなんですよ」
シェリルさんが酒場の扉を空けて声を掛ける。
「マスターこんばんはー!」
シェリルさんは顔なじみのような感じでお店に入っていき、俺たちもそのあとに続く。店内はまだ早い時間ということもあって客の姿はまばら。
答えるマスターは筋骨隆々のダンディーな髭をしたスキンヘッドの中年の男性。
「いらっしゃーい……今日は見慣れないのがいるが、もしかして」
「そうですよ。マスター新しい人が入ったんです。今日はその歓迎会も兼ねてきました」
「新入りよろしくな!」
「アイゼンです。よろしくお願いします」
「奥使っていいから」
マスターそういって親指で奥の方を指さす。
「とりあえず、皆さん麦酒でいいですよね? ニーナちゃんはいつものジュースですよね」
俺たち3人は頷く。
「じゃあマスター麦酒3つと特製ジュース、それに今日のオススメお願いします」
シェリルさんが席に着く前にマスターに注文を出しておいて奥のテーブル席に着く。
「ここの料理はなんでも美味しいんですよ。アイゼンもきっと気に入ります」
「楽しみです」
「そういえばアイゼンさんはギルドには入られてなかったのですか?」
「……い、いや」
と言いかけたところにマスターが麦酒が注がれたコップとジュース。そして何やらお皿を持ってきている。
マスターが皿を置く。皿の上には見たことのない耳のような形をした白い皮に包まれが焦げ目のついたものを持ってくる。
「うちの看板メニュー。焼きザーギョだ」
「ザーギョ?」
俺が丸い目をしているとシェリルさんが口を挟む。
「小麦粉の皮にひき肉を包んで焼いたものがザーギョです。ここのザーギョほんとにおいしいんですよ」
「へぇぇ。初めて見るわ」
「飲み物も来たようですし、ここは私が」
そういってシェリルさんが立ち上がる。
「ギルドをスローライフを結成して1年。やーーーっと4人目のメンバーが揃いました。アイゼンさんが加入されたことで受けられるクエストの幅も広くなると思います」
教授は別のことを考えてるように見え、ニーナちゃんはウトウトと舟をこぎ始めている。
「う、ううん。きいてますかー」
「は、はい。聞いてます」
返事をするとシェリルさんは麦酒の入った木できたジョッキを掲げ
「ようこそ。スローライフ♪へ! アイゼンさん加入してくれて本当にありがとうございます。それじゃかんぱーーーい!!」
そう言ってグイっと麦酒を一口飲む。俺も乾杯の音頭に合わせて一口飲む。
シェリルさんがザーギョの入った皿を目の前に差し出す。
「ザーギョ、食べてみてください。美味しいですよ」
シェリルさんに勧められてザーギョを一つまみしてみる。歯がザーギョの白い皮を破いた瞬間、肉汁が口の中に溢れてくる。
「こりゃ美味しい……3年前まではこんなのなかったのに」
「3年前? 3年前になにかあったんですか?」
シェリルさんは興味津々といった感じだ。
「修業にでてまして……」
「なるほど。俗世から隔離された生活を送られていたんですね……これどうぞ」
そういってもう一つのザーギョを差し出してくる。
教授とニーナちゃんは……
「やめたまえ、やめたまえ。吾輩の口にザーギョを突っ込むのはやめたまえよニーナくん」
ニーナちゃんにザーギョを口の中へ突っ込まれそうになっている教授。
それをみてシェリルさんがこういった。
「教授さんったらキントン大学出身の才媛なのに面白いですよね」
「え? 教授ってキントン大学出身なんですか?」
麦酒1杯で顔を真っ赤にさせた教授が答える。
「キントン大学の魔術応用学の専攻。ついでに学者のジョブも取れるからなとっておいたのだ。なんだアイゼンくんは吾輩がどこぞの底辺大学の出身とでもおもっておったのか?」
キントン大学、平たくいえばこの国で一番頭のいい人間が集まっているところといってもいい。ただキントン大学を出た人間は国の要職に就いたり、魔法の研究なんかをしたりしている筈だ。
キントン大学を出てこんなとこでギルドに入ってる人間なんて目の前にいる教授ぐらいじゃなかろうか。
「その顔は図星かね?」
「……はい……」
「この吾輩からあふれる知性に気が付かないとかないわーアイゼンくん見る目ないわー」
俺ははっとする。
「聞いたことある。キントン大学は頭が良すぎて変人ばかりだと」
「アイゼンくん。吾輩は頭はいいが至ってまともな思考回路。平々凡々な人間だと自負しておるのだが? 変人とは心外だな」
「でもなんでそんなキントン大学の出身の才媛がなんでギルドに?」
俺がそういうと教授は一瞬だけ真顔になったがすぐにその表情を崩して
「そりゃそうさな。研究室の中だけじゃ世界はみえない。吾輩の知的好奇心を満たすには冒険者になるのが一番。端的に換言すれば、吾輩には大学は狭かったということかね」
「教授……かっこいいっす。初めて教授がかっこよく見ました!」
「そうだろう。そうだろう。もっと褒めたまえよ」
するとマスターが二皿目の料理を持ってくる。
シェリルさんがマスターに話しかける。
「あれ? 料理頼んでましたっけ?」
「どうやらザーギョ気に入ってくれたようだな。これは俺からのサービスだ」
そういってマスターはザーギョの皿をテーブルに置いていった。
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