第10話 馬車酔い
――翌日。
ギルドハウスで夕食の前にシェリルさんがこう言った。
「前回のクエストで資金にも大分余裕ができたので旅行にでも行きませんか?」
「旅行?」
そう聞き返すとシェリルさんは頷いて返事をする。
「そうです。旅行です4人分2泊3日ぐらいの旅行なら余裕でできますよ。美味しいもの食べてゆっくりしませんか?」
教授が眼鏡をくいっと上げながら口を開く。
「うむ。このところ肉体労働ばかりで疲れていたところだ。場所は温泉だな」
「ですよね。皆さんお疲れですよね。いきましょう温泉♪」
ニーナちゃんも会話に加わる。
「……だったらイビーンズに行きたいの」
「いいですね! イビーンズ行きましょう。馬車をレンタルして明日から行きましょう。アイゼンさんも賛成ですよね?」
「あ、ああ」
なんとなくこのギルドがお金がない理由が分かった気がする。まあでもこうやって楽しくお金を使うのは嫌いじゃない。
◇◆◇
ということでレンタルした馬車に乗り込んで、イビーンズに向かうことになった。馬車を操作するのはシェリルさん。
教授は本を読み、ニーナちゃんはウトウトしている。
数十分ほど馬車に揺られ、森の中に入っていく。
「ちょっと止めてくれたまえ……」
教授が青い顔をして馬車を止めることを要求する。
「どうしたんですか?」
手綱を握るシェリルさんが振り返る。
「気持ち悪いのだ。早く馬車をとめたまえよ」
ははーん。教授のやつ酔ったな?
「馬車の中で本なんか読むから」
ツッコミに青い顔で口に手を当てて答える。
「うるさいな。吾輩の知識欲は底が知れんのだ……」
馬車がゆっくりと止まると、今まで見たことのない速さで教授は馬車から降りて木陰に消えていく。
「私、お水渡してきますね」
シェリルさんは水筒をもって教授の元に向かった。
「教授さん?」
シェリルさんが探しているような声を出す。
そして馬車に戻ってくる。
「教授さん帰ってきます?」
俺は首を横に振る。
「いないんですよ。教授さん」
「え? だってさっきそこの木陰に」
そういって指を差すがその先には人影もない。
「あれ?」
馬車を降りて俺も一緒に探す。
「そんなに遠くにはいってないと思うんですが……」
シェリルさんの言葉に頷いて返事をする。
ほんの数秒で人がいなくなるとかあるのか? 俺だったらできないこともないけど……教授にそんな身体能力はない。
3人で辺りをくまなく探す……
「教授どこにいんの?」
「教授さーんどこですかー」
「……教授どこなの?」
周辺を手分けをして探すということになる。
――数十分後
2人の表情からいなかったということを察っし俺も首を横に振る。
表情が曇っている2人に俺が口を開く。
「案外馬車に戻ってきて早く出発したまえとか偉そうにいってるかも」
「そうですね」
馬車にもどってみるが教授の姿はない。
「どこにいったんでしょう……」
「こういう時はもう一度足取りを確認してみるとか?」
馬車からまた教授が降りて吐きにいったところに行ってみる。すると草むらの中に光るものを見つける。
あれ? なんか落ちてる……
そこには教授の眼鏡が落ちていた。
それを拾い上げてシェリルさんに見せる。
「これ……」
「それは教授さんの眼鏡……」
シェリルさんの言葉に頷く。
「ど、どうしましょう……教授さん誘拐されちゃいまいた……」
「い、いやまだ誘拐って決まったわけじゃ……」
でもなんらかの身の危険が迫ってるという事実には変わらない。早く見つけないとまずいかも……
するとニーナちゃんが森の奥を指差す。
「よく見たら足跡あるの……奥へ向かって」
ニーナちゃんの言う通り足跡が森の奥に続いていた。
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