第1話 席がなかった
「みんなに相談があるんだけど……」
ギルドハウスでくつろぐギルドメンバーの3人にそう伝えた。
「なんだ? 俺たちは仲間だろ? 遠慮はなしだ」
そういったのはリーダーで長い金髪がトレードマークの聖騎士のマルフォイ。
真っ黒な衣装をきて三角帽子を深めにかぶっている魔術師のガードナー、白い装束を身にまとった金髪碧眼の女性、ギルドの回復役、アエル。
そして俺、素手で戦う格闘士のアイゼン。
俺たちはこの4人でギルド、『フレイム』を組んでいた。トップギルドになると『世界樹』を冒険する権利が与えれる。
いつの日か俺たちは世界樹を冒険できるギルドになれることを夢見ていた。
おれの言葉にギルドハウスの食卓に4人がつく。
「実は……俺……修業をやり直したい……」
俺がそういうとリーダーのマルフォイは目を丸くさせる。
「どういう意味だ?」
「このまえ、ドラゴンと戦ったろ? その時、俺の攻撃があいつの厚い皮に阻まれダメージがはいってなかった」
「……そんなことを気にしてたのか? 適材適所だし悩む必要はないと思うが……」
「ありがとう。マルフォイ……実は拳聖トン・デ・ボンが最後の弟子を募集しているんだ」
俺がそういうとマルフォイは少し悩むような素振りを見せると真っすぐに俺を見つめてこう言った。
「決意は固そうだなアイゼン」
コクリと俺は頷く。
マルフォイは立ち上がり俺の肩をポンと叩く。
「行ってこい! アイゼン! さらに強くなって帰ってこい! お前の席はずっと空けとくから!」
ほかの二人もうんうんとマルフォイの言葉に頷いている。
そして俺はギルドを離れ、拳聖トン・デ・ボンの元へと向かったのだった。
――3年後……
ごつごつとした岩が転がり、荒涼とした風景が広がる山の頂上。
この人が住めるような場所でないところで拳聖トン・デ・ボンの師事を受け3年間、俺は血の滲むような修練を行ってきた。
スーッと息を吸って掌底を目の前の大岩に繰り出す。繰り出した数秒後、ボフンと大岩は粉々に砕け散る。
これが修業の成果……俺はこの3年間で遥かに強くなった。今だったらドラゴンだろうがなんだろうが一撃で倒せる。
「ふぉっふぉっふぉ」
と笑いながら現れた真っ白な長い髭を蓄えた腰の曲がった老人。
「師匠」
拳聖トン・デ・ボン。格闘術の頂点を極めその齢は100を超える。しわだらけの顔で垂れた瞼が目を覆っているにも拘わらず、その眼光はいまだ鋭い。
師匠はその鋭い視線で俺を見つめながら話し始める。
「アイゼン……もはやお主に教えることはなにもないのぉ……たった3年でここまで成長するとはのぉ。お主もはや全盛期の儂より強いかもしれんのぉ」
「……師匠……」
「すまん。全盛期の儂のほうがちびっとだけ強いかもしれん」
「はいはい」
「ということでお主に教えることはもう何もない。山を降りて天下にその名を轟かせてこい」
「はい! 師匠! 今までありがとうございました!」
ということで師匠の元での修行を終えた俺は3年ぶりに山を降り、みんなが待つギルドフレイムのある王都グルテンに向かった。
3年かぁ……思ってたより短かったな。まあ俺の才能が凄かったんだろう。師匠もそういってたしな。
早くギルドのみんなに会いたいな。強くなった俺をみんなに見せたい!
1週間程の旅路が終わり緑の平原の向こう側に灰色の城がかすかに見える。
「王都だ……」
3年しか離れてなかったけど色々と懐かしい……
マルフォイ、ガードナー、アエル3人の顔が思い浮かぶ。
気がつけば走り出し、王都に入る為の大門のくぐると活気のある街並みが目の前に飛び込んでくる。
ギルドハウスは街の外れにあり、ここからはちょうど反対側にあたる。
3年前となにも変わらない街に少し安堵しながら、逸る気持ちを抑えギルドハウスに向かう。
商店街を抜け、長屋が立ち並ぶ路地を抜け、グルテン城を傍目に見ながら、進むこと1時間あまり。
俺の目の前に木造2階建ての古びた建物が現れる。
ここがギルドフレイムのギルドハウス。
ここまで走ってきたから、荒くなった呼吸を鎮めるため一呼吸いれる。
スーハー
深呼吸をしてギルドハウスの扉を開ける。
すると目に飛び込んできたのは、黒い髪をした東国の裾の長い服を着た青年がきょとんとした顔でこちらを見ている。
……家を間違えた? いや間違えるはずがない……とりあえず話しかけてみよう。
「すいません。ここって世界樹ってギルドのギルドハウスですよね?」
「はい。そうですよ。仕事の依頼でしょうか?」
あーそっか。雑務担当の人間を雇ったんだろうな。とりあえずマルフォイがいるか聞かないと。
「リーダーのマルフォイに取り次いで……」
と言いかけた瞬間、ギルドハウスの奥からガードナーが現れる。
「シン君、どうしたのお客……」
と向こうも言いかけて言いよどんだ。
「よ! ガードナー! 俺だ。アイゼンだ。修業を終えて帰ってきた」
「あ、ああ……それは良かった……めでたい……めでたい……」
ガードナーはあまり嬉しそうな雰囲気ではなく、いつもの三角帽子を深くかぶり表情が見えなくなる。
「マ、マルフォイを呼んでくるよ」
ガードナーはそう言うと二階に上がっていった。
コツコツと階段をゆっくりと歩いて降りてくる音が聞こえてくる。腰に剣を差した長い金髪の男が現れる。
マルフォイだ。その姿を見ると顔の表情が緩みにこやかな表情になる。
「マルフォイ帰ってきた! また一緒にがんばろう」
俺がそういうとマルフォイはなぜか浮かない顔をしている。
「アイゼン……君の席はない」
「はい? 席がないって?」
「もう私たちのギルドに君の居場所はない」
「……だって3年前、席を空けとくからずっと待ってるって……」
「3年もたてば状況も変わる」
マルフォイはそういうと見慣れない青年の横に立つと
「こいつは陰陽師のシン。俺たちフレイムの4人目のメンバーだ」
「4人目って……」
「ああ。アイゼン。君が抜けてから入った新メンバーだ」
居心地が悪そうにシンはちょこんとお辞儀をする。
「陰陽師は格闘士と違ってデバフやバフを使って味方をサポートするジョブ。格闘士は自分だけがダメージ稼いで気持ちよくなるジョブだ。それと違って味方全体の攻撃力を上げるシナジーが陰陽師にはある。みんなが気持ちよくなれるジョブなんだ」
「そ、そうか……だったら俺を5人目のメンバーに……」
俺がそういうとマルフォイはまたため息をつく。
「はぁ……このギルドハウスの部屋は4つしかないのは知ってるよな」
「あ、ああ」
「シンはこの3年間、頑張ってくれた、このシンにギルドハウスから出て行けというのか?」
「い、いやそういうわけじゃ……俺はどこででも雑魚寝するし……」
マルフォイは語気を強めまくし立てるように言い始める。
「はぁ……お前、ここまで空気の読めない奴じゃなかったろ? 俺たちはお前は要らないって言ってんの。お前の席はもうないの! いい加減このギルドハウスから出て行ってくれ!!」
「え? え? マ、マルフォイ……」
「早くでていけよ」
マルフォイは怒りをあらわにしたような表情で俺を睨みつける。剣すら抜きそうな勢い。
「わ、わかったよ……」
そして俺は気が付くと王都の路地裏をトボトボと歩いていた……
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