自分のペットボトルと好きな人のペットボトルをこっそりすり替えてる女の子を考えたけどコロナウイルスが流行っているので打ちきり【一話打ちきり不可避シリーズ】
「ねえ、後藤くん」
「なんですか、長野先輩」
「今日はそろそろ終わりにしようか?」
「はい、そうですね」
私と後藤くんは、この高校に二人しかいない美術同好会の先輩と後輩。
「じゃあ私、このまま美術室で制服に着替えるから、後藤くんは美術準備室でゆっくり着替えながら軽く片付けでもしててくれる?
終わったら声掛けるから」
「は、はい! 分かりました!」
毎回顔を赤くして、本当にかわいいなあ、後藤くん。
そう。後藤くんがかわいすぎるのが悪いのだ。
「じゃあ俺、こっちで掃除してるんで!」
後藤くんが美術準備室の扉を閉めた。私の部活はここからが本番だ。
うちの美術部――今年は美術同好会だが――は、多くの作業をジャージで行う。絵の具やペンキが制服に付いたら面倒なことになるというわけだ。
私はこの、こそこそ男女に別れて着替える作業が面倒くさくて好きではなかった。慌てるし、落ち着かないし、嫌で仕方なかった。
しかし、今は大好きだ。理由は、恋する乙女なら分かるはずだ。はい、そこの恋するあなた、正確。そうです、ペットボトルすり替えです。
後藤くんが毎日飲んでる、ここにあるアイスミルクティーのペットボトル!
そして私が鞄に隠し持っている、同じペットボトル!
プシュッとお口にブレスケアしてから開封して、後藤くんのと同じ量になるまで一気飲み! 初日みたいに焦って泡だらけにしないように注意!
飲んだ! 交換!
さっきまで後藤くんが飲んでたペットボトルは私がお持ち帰り!
お風呂でこれに氷を入れていただくともうたまらんのだ!
そんで急いで制服に着替えて。鏡出して。鼻血出てないよね。口元汚れていないよね。髪型も平気だよね。あー目が充血しそうになってるから今日は早く寝なきゃ。……まあとりあえずヨシ!
「後藤くん、お待たせー。いつも長くてごめんね」
「いえ、全然」
後藤くんは、目を合わせずに答えた。着替え直後は顔を見るのも恥ずかしいらしい。
もー大好き後藤くん。
そして、緊張して喉が乾いた後藤くんが気まずさの中で取る行動は……はいやっぱり飲もうとします! 飲み……飲み……飲みました!
くはーっ!
もうね、もうね。ダメだこれ。今日でこんなことやめようって毎日思うんだけど。バレたら軽蔑されるし。なにより真面目に美術同好会やってる後藤くんに悪いと思うんだけど。ダメなの、止められないの。ごめんなさい。
「部長、そういえば聞きたいことがあったんですけど」
帰り道に、後藤くんが言った。
「なに?」
「昨日、デッサン用に女性の手を検索したんですけど、イラスト的なものばかり出てきちゃって。なんか爪とか変な感じで」
「ああ、それはね。模写用のサイトがあるんだけど」
「そういうのも見たんですけど、指の関節が部長の手と違ってきれいな形じゃなくて上手くいかなかったんですよ」
「え?」
聞き間違えたかな?
「あ……す、すみません! 実は勝手に部長の絵を描いてて! 気持ち悪いですよね……」
後藤くんが、また顔を赤くした。
「そんなことないよ!」
それが気持ち悪かったらペットボトルすり替えてる私なんてウジ虫だし。後藤くんは天使よ天使。
「あー俺、何言ってるんだろ。本当にすみません」
後藤くんがなんだかかわいそうでかわいそうで、私は励ましてあげたかった。
「変なことじゃないって! 後で私の手の画像、メールで送る?」
「良いんですか?」
「手だけ? 腕まで?」
「腕までもらっても良いんですか?」
「良いよ。他には? 足は?」
「実は足もすごく難しくて」
「足首まで? 膝まで?」
「出来たら膝か太ももまでもらえたら助かります」
「後は? 顔は?」
「顔もすごくほしいです」
「首まで?」
「もっとほしいです。肩とか」
「え、胸の辺りまで?」
「顔だけのと、そのくらいのと、全身のとほしいです」
「三つとも撮るのね」
「はい。すみません。ごめんなさい。出来たらで良いし、急ぎじゃないですから」
後藤くん、もう泣きそうになってる。
「良いよ良いよ! 良いんだけど、そんなにあると私じゃポーズとかどうすれば良いか分からないし、明日美術室で後藤くんに撮ってもらおうか? その方が良いでしょ?」
「はい、それで良いです! ありがとうございます!」
後藤くんの純粋そうな笑顔が私の汚い心をぶっ刺した。
そして今、私はお風呂で入念に身体を洗っているのだが……いや、写真撮りまくるなんてハードル高いよ!
太もも太いし。肩も変に出てるし。二の腕ぶよぶよだよ。
後藤くんが誉めてくれた手も、青白い血管が出てて気持ち悪いし。後藤くん、誰かきれいな人の指と私の指と間違えてるとかないかな?
それに太もも撮るって、スカート? 太ももが分かりやすいようにジャージ? そっ、それとも、後藤くんが途中までスカート捲るとか!?
そしたら下着とかはどうしたら良いの!?
もうわからん。わからんことだらけだ。
よし、こんなときこそ後藤くんのミルクティーだ!
美味しい。やっぱり美味しいよ、後藤くんティー。今日も一日ありがとう。
後藤くんも今頃、私のミルクティーを知らずに飲んでるのかな。ごめんなさい、後藤くん。今日ですり替えるのは最後にするからね。明日から真面目に先輩やるから。……やると思う、多分。




