Road. 9
結論から言うと、トマトの成長はちゃんと停止した。そして、実は収穫され、その他の部分は小さく切り分けられた後で焼却処分となった。
「……で? 何がどうなったのか説明してもらえるんか?」
「分かってる。まず、この村の畑についての話だが、この畑は『村に居る者の魔力を吸収して作物の成長を促進する』効果があるんだ。吸収といっても、全体量の数%以下、ごく微量だけどな」
「なるほど、我らの魔力でその効果が過剰に発揮された、ということじゃな」
「……私達が居ると、村の方々に迷惑が掛かるのでしょうか」
馬鹿馬鹿しい騒ぎであっても、村が危なかったことに変わりはない。2人は━━特にクリルは、心にトゲが刺さったような気分になっていた。
「それ自体は否定できないけど、直接の原因はそこじゃない。畑にあったリミッター。本当なら予めレベルを上げておくべきだったんだ」
ユートが常連だったように、この村に来る人には魔力の高い者が少なくない。そういった来客があったときのために、魔力の吸収や作物の成長を抑える安全装置も備えられてあった。
「2人が高い魔力を持っていることを伝えてなかったんだ。普段なら俺が居る時点で相応のリミッターが掛かるはずだったんだけど、今日は色々と予定もあったとかで設定も変えてなかったらしい」
だから2人は悪くない、とユートは続けた。
「この話はここまで。俺らの歓迎会してくれるそうだから、今日はもうそっちに集中するぞ!」
「歓迎会か……。そう、か。せっかくのことだし、楽しまんと損じゃな!」
「私も……よろしいのでしょうか」
「良いって良いって。みんな待ってるだろうし、さっさと行って楽しんでやろうぜ」
◇◇◇
「……あ! 勇者様、お待ちしておりました!」
いつの間にかすっかり日は落ちていて、村の広場には少しばかり過剰なほどの篝火が焚かれていた。
「歓迎会は嬉しいけど……ちょっと盛大過ぎない?」
テーブルには料理や飲物が、これでもかと言わんばかりに並んでいた。その質も、大きな街の祭で振る舞われるものと変わりない。
「いえいえ、これでも足りないぐらいですよ!」
「おれたちも手伝ったんだぜー!」
「こっちは私が作ったんだよ!」
どうも村の規模とは釣り合わないような代物に見える。しかし、それに疑問を覚えているのはゲルデとクリルだけのようだ。村人の様子を見ても“勇者の為に無理をして準備した”感じではない。
「ずいぶん……豪勢、じゃな?」
「量はともかく、豪華さでは城での宴会を超えているかもしれませんね……。人間領では、この村ぐらい豊かなのが普通なのでしょうか?」
クリルが思わず漏らした疑問に、近くに居た村人が答えた。
「そんなことはありませんよ。ここは本当に特別です。勇者様から教わった技術と、聖女様が掛けてくださった魔術。この村はその2つによって成り立っているんです」
3人が話している間に、歓迎会は始まろうとしていた。村人達も、それぞれが木製のジョッキを手に取っている。ゲルデ達にもジョッキが渡され、ゲルデはエール、クリルはハーブティーをそれぞれ注いでもらった。
「それでは! 勇者様と2人のお客人に……乾杯!」
「乾杯!」「乾杯っ!」「かんぱーい!」