Road. 4
「意外と平和なものじゃのう?」
「そうだな。俺もここまで何もないとは思ってなかったよ」
最悪の場合として、森を出た瞬間に包囲される可能性まで考えていた分、何もなくて肩透かしを食らった気持ちになる2人であった。
「流石に人間領の地理までは詳しくないからのう。ユート、道案内は任せるぞ」
「分かってる。ってもマトモな道は使えないし、かなりの遠回りになるな」
2人が警戒を続けながら進んでいくと、ある光景に遭遇した。
「ん? ユート、あれはなんじゃ?」
1台の馬車を、武装した集団が馬で追っている様だ。
「……盗賊、か? にしては何か違和感が」
ユートの疑問はすぐに解消された。違和感の正体は、盗賊らしい方の装備がやけに上質そうなことと、その集団が旗を掲げていることだった。
「ふむ、ガラは悪いが盗賊ではないな」
興味をなくしたゲルデと対称的に、ユートはその光景に━━━正確には、追われている馬車に視線を向けていた。
「あの馬車……ヤバい!」
「お、おい!? 何をするつもりじゃ!?」
ゲルデが止める間もなく、ユートは駆け出していた。
◇◇◇
「ええぃ、しつこい!」
その御者は、巧みに馬車を操りながらも、追い掛けてくる存在と自分の不運に文句を言っていた。
男は、世間一般的に言うところの “悪いこと” をしている自覚はあった。ただし、彼には自分の行いは正義であるというプライドもまた持っていた。加えて彼の行動は、かの “勇者” に託されたものでもあった。
「勇者様の為にも……!」
一般人の彼に、国の中央で起こっている事態など分からない。ただ、以前は定期的に村へ訪れていた勇者が、最近は全く顔を見せなくなっていたことで、勇者を取り巻く状況に何かがあったことは薄々察していた。
「うわっ!?」
突然馬車が傾いた。明後日の方向に転がっていく車輪が見える。車軸が折れてしまったようだった。焦ってスピードを出し過ぎてしまったせいか。
「……しくじった」
こうなった以上、自身の命は二の次だ。下手に情報を漏らすくらいなら、舌を噛み切るのも悪くない。迫りくる騎馬の群れを見て、あわよくば一矢報いてから……と護身用のナイフを鞘から引き抜いた。
しかし、いよいよという時に目の前で男達が吹き飛んでいったことで、彼の覚悟は不要なものになってしまった。
◇◇◇
「久しぶりだな。アイン」
「ゆ、勇者様!? お久しぶりです……が、何故こんなところに?」
しばらく音沙汰なしだった勇者との再会に、彼━━アインの思考は驚きで占められていた。
「まあ、色々あってな。それより……何やらかした?」
旗の意匠から判断すると、アインを追っていたのはそこそこ有名な傭兵団だった。
「いつもの品を運んでただけの筈です。心当たりはちょっと……」
「……だよな。とりあえず、まずはコイツら片付けるか」
ユートは剣を抜こうとするが、それを制止するように横から手が伸ばされた。
「ここは我がやろう」
どこか楽しそうな雰囲気でゲルデが宣言した。
「あれだけの技を見せられたんじゃ。これぐらいはやらんと我が役立たずに見えてしまうでの」
そして、集まってくる傭兵達を獰猛な笑みで歓迎する。
「なら任せようか。いろんな意味で大丈夫だとは思うけど、油断はするなよ?」
「ああ。余計な心配じゃの」
軽口を叩き合い、魔王の蹂躙劇の幕開けとなった。
明日も同じ時間に更新する予定です。是非読んでいただければと。