Road. 1
アイデアが溜まり過ぎたので放流することにしました。
正直どこまで続くかは未知数です。
まともな人間なら、まず踏み入れることがない危険地帯の森の中。小さな洞窟にまともじゃない人間が入り込んだ。
「はぁ、はぁ……。やっと、撒いた……か?」
ボロボロの服を着て、傷だらけの体を引き摺るこの男。異世界より召喚された勇者だった。
魔物や無法者との激戦で受けた傷…………ではない。少々、いや、かなり折り合いが悪かったとはいえ、一応は味方であったはずの人間の軍から襲われた結果だった。
「くそっ……完全に嵌められたってわけだ。笑えねぇ」
撹乱の名目で魔族の大軍に単騎で突撃させられ、辛くも生還したところを包囲された形だ。生き延びられたのは奇跡に近い。
「これからどうすっか……。ちくしょう、日本、帰りてぇなぁ」
思わず漏れた弱々しい声に、洞窟の奥から応える声があった。
「……何者、いや聞くまでもないな。追手か」
その声も、勇者と同じように弱々しく、どこか諦めたような雰囲気だった。
「……どうした? ああ、安心しろ。この後に及んで抵抗する気なぞない。さっさと我の……魔王の首、取ればよかろう?」
( ━━━!? )
魔王。それは、文字通り魔族を統べる王。魔族領の最奥にあるという城に居るはずの存在。人間領の、それもこんな未開の地にいるわけがない。
「来ないのか? 罠など無いぞ。……ふふっ、ルフティアンの下には腰抜けしか居らんようだな」
奥から現れたのは、人間の女性のようだった。確かに、角やコウモリに似た羽が生えているが、アクセサリーだと言われればそのようにも見える。ただ、頭や、手足の傷口から流れている青い液体が血であるのなら、やはり彼女は人間ではないのだろう。
「……人間、か? そうか、ここは人間領だったな。……お主、面倒に巻き込まれる前に、我から離れた方が身のためじゃぞ」
「忠告には感謝する。だが、そういうわけにもいかない。偶然にも程があるとは思うが、こっちは勇者なんでな」
その自称魔王は、少しだけ固まってから急に笑い出した。
「ハハハッ、勇者か! 何という巡り合わせだ!」
一頻り笑った後、彼女は真面目な顔になってこう告げた。
「勇者よ、我の首を取れ。裏切り者の手に掛かるより、お主に討たれた方が、魔王の最期に相応しいであろう」
勇者は腰に提げた剣に手を伸ばし━━━━息を吐いて手を戻した。
「……いや、止めておく。俺はもう、そういうことは求められてないし、どうやらアンタも “ワケアリ” みたいだしな」
「なるほど、話に聞いてた通り……か。追手も来んようだし、丁度いい。暇潰しじゃ。お主と話がしてみたい」
それは意外な提案だった。本来であれば、顔を合わせた直後にも、互いに武器を向け合うような組み合わせ。雑談をするどころか、交渉のテーブルに着く可能性すら0に等しい。しかし ━━━━
「……分かった。他にやることもないし、こういうのもアリかもしれないな」
━━━━ 勇者はその提案を受け入れた。
作者の別作品、
『暁のゴーレム戦記』
https://ncode.syosetu.com/n2027dz/
『マギアライドウォーズ』
https://ncode.syosetu.com/n3317fz/
も良かったら見て下さい。