プロローグ ⑧
と、ここまでが旧校舎の地下イベントのシナリオ。ゲーム本編ではこの時点ではリチアとイオニコフはお互いが知り合うだけ。正式に絡んでくるのは夏の臨海学校イベントの時だ。それまでは出会いのイベント以降姿を現さない。
なので、沙夜もこれでイベントが終了したと思ったのだが…。
「…エラ、キミはどうして旧校舎の前で魔法の練習をしていたんだい?今はまだ春休み期間…じゃないのかい?」
小首を傾げながらイオニコフは微笑んだ。
…イオニコフには確か眠っている間も周囲の様子をドラゴンに探らせて情報を収集していたはず。だから今が春休みなことも知っている。だとしたら、どうして今、目覚めたのかしら…。まだリチアが編入して来ていないのに…。
「えっと…春休み明けの模擬試験、そこできちんと魔法を扱えなければと思ったのです。ですが、どうしてか私は上手く魔法の制御が出来なくて…」
ひとまずは話をややこしくしないためにエラは話を合わせる。ここから先はイベントにもない展開だ。探り探りで話を進める。
「ふぅん。魔法の制御がねぇ…。んーそれはそうだろうね」
「え?何かわかりますの?」
「うん。だってキミ、魔力が封じられているみたいだからね」
「!?」
…魔力が封じられている!?エラにそんな設定あったっけ?特別な魔力を持つのはリチアのはず。どうしてエラまで…。
イオニコフが目覚めるきっかけは春に転校してくるリチアの魔力が関係していた。だがそのリチアはまだ転校して来ていないし、この口振りじゃ彼が目覚めたきっかけはエラの封じられている魔力が関係しているとも取れる。
ただ、エラが上手く魔法を使えないのは魔力が封じられているからということがわかった。
「そのままじゃ魔法が上手く使えないのも無理はないよ。でも、一人でも練習しようっていう心意気は気に入った」
イオニコフはそう言うとパチンと指を鳴らす。
その瞬間、エラの周りに光の輪が集まりそれにエラが驚いていると輪が強く光ったかと思うと瞬く間に周囲の様子が変わり、瞬きの瞬間にはエラの寮の部屋に戻っていた。
「…瞬間移動の魔法…」
部屋のベッドの上に座り込んだエラはしばらくボーッとしていた。
後日、春休みの間ずっと旧校舎の方に向かい魔法の練習をしたが一向に上手くなる様子はなかった。魔力が封じられていると気づいたイオニコフなら何か方法がわかるかと思い旧校舎の扉を叩いたがその扉が再び開かれる事はなかった。