プロローグ ⑥
…いやあああああああ!!殺されるうううううう!!!
ドラゴンの咆哮が聞こえるよりも早くエラは部屋を飛び出した。階段を駆け上がり、旧校舎の外へと出た。それから寮への道に入ろうと思った時にふと頭を過った。
…あれ?今私、何をした?
確かシークレットキャラクターには常にその傍らに小型のドラゴンが控えていたはず。
つまり、あの時あそこには攻略対象のキャラクターが一緒に居たという事だ。そして見ていたはずだ。ドラゴンの尻尾踏んでおきながら逃げ出した私のことを。
…六人目のキャラクター…名前は確か…イオニコフ。そう、イオニコフ・メルエム=オーデルセン。
漆黒の髪が特徴の美男子だったはず。そして、通常は一人あたり二つのENDしかないのだが彼のエピソードの場合は三つのENDが用意されていた。二つは他の攻略対象と同じでハッピーENDとアンハッピーEND。イオニコフの場合はもうひとつある。共通ルートで五人の誰も好感度が高くなかった場合に見られる友情ENDと言われるノーマルENDのさらにその先のお話。真・ENDにあたるシナリオだ。
「確か…このシナリオで灰かぶりのエラが関わってたと思うんだけど…。それに、イオニコフも」
だが…。
…真・ENDが思い出せない!?ぜんっぜん思い出せないんだけど!!!?
他の攻略対象のENDは覚えている。そこに至る分岐もそれなりに覚えていた。だが、肝心の真・ENDどころかイオニコフのストーリーはハッピーEND以外を覚えていないのだ。アンハッピーENDですら結末を覚えていない…。サァーっと血の気が引いていく。よくあるゲーム異世界転生ものではシナリオを覚えていてそれを駆使して破滅フラグを回避する。なんてものが多いが、生憎、エラこと紗夜にはそんな方法を取れそうにないようだ。
「…これは由々しき事態だわ…。今わかっているのは…このまま灰かぶりだと間違いなく私は主人公のいい駒人生…。でも、灰かぶりのエラってそれだけのキャラクターじゃなかった気がするのよね…」
ただ主人公の恋のキューピットってだけの設定ならわざわざ“灰かぶり”なんて意味深な呼び名のキャラクターを用意するはずがない。だが、肝心な部分は相変わらず思い出せないでいる。
考えても仕方ないと一度深呼吸をして気持ちを切り替える。とりあえず、六人目の攻略対象であるイオニコフがいるという事はここは少なくとも六週目の世界線、つまり迎えるエンディングの候補の中に真・ENDがあるという事。このEND、イオニコフはキーパーソンだったはず。いまいちエラにどんな影響があったかは思い出せないがイオニコフを味方につけておいて損は無いはずだ。寧ろ敵に回すのは危険だ。なんたって攻略対象の中で唯一無二である大魔法使いの称号を持つキャラだったのだから。
「そうと解ればやる事はひとつね」
エラは踵を返し再び旧校舎の地下、研究室へと向かった。