プロローグ ②
これが俗に聞く「異世界転生」か。と、納得しかけたところで我に返る。
「いやいやいやいや!!?嘘でしょ!?夢じゃないの!!?」
既に放課後なのか中央階段付近に人影はなく、エラの叫びだけが木霊する。
…これは由々しき事態よ!!!ここが本当にあのクリスタル学園で私が灰かぶりのエラに転生したっていうなら、エラの末路って…。
灰かぶりのエラは乙女ゲーム「魔法学園 時のノクターン」で登場するキャラクターで主人公が転入してくる二年生の春に起きるイベントで虐められているところをヒロインに助けられたことで平穏を取り戻し、ヒロインの友人Aとなる。これがゲームの共通ルートで起きる最初のイベント。その後、エラは主人公ことリチアに恩返しをするために攻略対象五人の個別ルート毎に恋のキューピットとして活躍するポジションを勝ち取る。のだが、これはあくまでも表向きの話。一見平和そうに見えるこのポジション。実際にプレーしていたときから思っていたのだが、この灰かぶりのエラはリチア達とつるんでいても不遇なのは変わらないのだ。攻略対象五人の愛はリチアに注がれるし、会話も途中から消える扱いだし彼らと行動しないだけでいじめのターゲットであることは変わらないので隠れた所で攻撃され続ける。しかもリチア達もこれといって解決に乗り出してくれることもない。
共通ルートですらこの扱い。個人ルートになったらモブ感満載で、それなのにリチアが攻略対象を落とすためのイベントやアイテムの準備はこの灰かぶりのエラが仕込んでいるという設定。さらに畳み掛けるようにどの攻略対象との恋愛ENDに進んでもエラには恋人どころかリチア以外に親しい相手も出来ていないというオチ。それなのに満面の笑みで二人を祝福するというのだ。
つまり、主人公とつるんだところでエラ自身、何も変わらない自己犠牲な人生を送ったということになる。
…冗談じゃないって!!!!そんなエンディング!!!
どうしてこんなことになったのかはわからないけれど、このままリチアの従者になるつもりもないし何一つ幸福もなく終わる人生なんて真っ昼間ごめんだ。
私、秋葉沙夜は私立大学に通う四回生。いつもの日課で大学までの道を自転車で走っていた筈だった。特に直前に事故に遭ったとか異世界転生ものの鉄板ネタを挟んだ記憶もないのだが何故かこうして乙女ゲームの世界に転生していた。最早神様の悪戯と思う他ないだろう。これ以上その事を考えても埒があかないので、まずは灰かぶりのエラことエラ・エーデルワイスが今、どういう状況にあり、どの地点の話なのかを把握しなければならない。
エラとしては主人公と接触しても嬉しいことは特にない。良いように使われるのがオチなので、そもそもの接触イベントを回避することが最善策と言える。とは言え、この転生した地点で既に接触イベントの後だったらどうにもならないわけで…。
…とにかく、接触イベントは二年生の春に来る。今がどの時点の話かを確認しないと…。
エラが着ている制服は長袖だった。ということは、冬か春であるということだろう。エラ・エーデルワイス自身の記憶も持っている沙夜はひとまずはエラの部屋に向かうことにした。