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転生先は灰かぶり  作者: 紗吽猫
イベント〜学園祭〜
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第十九夜 ②ー2


本来の学び舎としてあるべき姿は“灰かぶりのエラ”という落ちこぼれの登場によって奇しくも消え去ってしまった聖クリスタル学園。まぁなんと嘆かわしいことだろう。彼の大英雄を輩出した名誉ある学園とはよほど思えない体たらく。


百年前、自らを賭して守った学園とその生徒達が、そしてそんな状態を良しとしてしまう教師達にも落胆せざる得ないだろう。イオニコフはどれだけのショックを受けたんだろう。


彼の腕に抱かれたままエラはそんなことを思った。慰める訳でもないけど、なんとなく、なんとなく彼の服を軽く握る。腕から逃れるのではなく、寄り添う方を選んだ。たとえそれが余計にいじめっ子達の神経を逆撫でしようと知ったことではない。

そんなエラに気づいたのか、彼女の手が、体が先程よりも身を預けてくれているのを感じて嬉しくなったイオニコフはほんの少し笑みを浮かべる。そして改めて、生徒の中を割って入ってくる彼の教育実習生に目を向けた。


彼の教育実習生ことローレン・J・リードは先程の英雄の問にこう答えた。


「ええ、そうですね。私の立場で言うべきではないのでしょうが、はっきり言えば、反吐が出ますね。ここの方々の無関心具合には」


言った。思いっきり、反吐が出るって言った。それいいの?言ってしまって大丈夫?


「暴動が起きるレベルであれば動く気のようですが、どうやらさほど重要視していないようですね。まぁ、元が落ちこぼれだったことに起因するならば、成績が上がっていくうちに収まるだろう、といった至極楽観的なスタンスのようです。逆に言えば、実力が無いのなら同時に、人権もない、と言った所でしょうか」


なんて辛辣だ。というかそれ普通にダメじゃない?学校として。

そんな当たり前のようなことがツッコミのように頭を過ぎった。


というかまさかその楽観的故のそんなレベルで魔女の入学を許しちゃったって言うの?あり得る?あり得ていいの?いや、これこそシナリオの強制力というやつなんじゃないかと思う。だから疑問にも思わなくて今日までいじめを容認している…そう考える方が納得がいく。それか入学試験の段階で魔女が教師陣に何かを仕掛けていて、とか?残念ながらエラ自身の記憶はほとんど定かではなくて入学試験のことやさよが転生するまでの間のことはあまり覚えていない。記憶にあるのは学園生活におけることだけで、例えば入学以前、もとい直前のことも覚えていないわけで。


「…ふむ。少し場所を変えましょうか」


ローレンがそう提案する。これにはエラもイオニコフも一度お互いの顔を見合わせる。ついて行っていいものだろうか?とも思ったが、今後に控えているだろう最悪のイベントを回避するためにもローレンがどういう立ち位置にいるかは把握しておきたい。

ちなみに、ギザイアとは間違いなく、敵対するだろう。



☆☆☆☆




ローレンに促され空き部屋にやってきたイオニコフはエラを背に隠すようにして教室の中心辺りに立つローレンと向き合う。

そんな警戒心をあらわにする英雄に教育実習生は少し困ったような笑みを浮かべていた。


「すみませんね。あそこは生徒も多かったものですから。退席していただくより私たちが移動する方が早いと判断しましてね」


ローレンは言いながら近くの机の上に軽く腰掛ける。一応とはいえ教師がそれをしていいのだろうか?

…なんだか、彼もまた、ゲームとは印象が違うわね。

ゲームのローレンはもっとこう、鈍臭い感じの憎めない奴だった。こんな、不敵な笑みを浮かべるような奴じゃなかった。


口の端をニヤッとあげている。そんな笑い方をする奴じゃなかった。

…イオニコフだってそうだったけど、だけど、ローレンの変化は…。


何処か不気味、と表現するのが判りやすいかもしれない。なんとなく、嫌な感じがする笑い方だ。どうしてこんなに原作と違うのだろう。

…いえ、そもそもゲームって全部リチアが深く関わっていたんだわ。それってゲームの中の攻略対象達は少なかれリチアの影響があったはず。でもその影響が、今この世界では、薄いというのなら、彼らのこの変化が生来の姿ってことかしら。


「そんなに睨まないでください」


苦笑を浮かべるローレンの視線はイオニコフの背後にいるエラに向けられている。その視線にエラは思わずドキッとする。もちろん、不快な意味で。


「ローレン。御託はいいよ。それで、ボクたちをここに呼んで、一体何の話をするつもりだい?さっきの話の続きっていう認識でいいのかな?」


「ええ、概ねそれであっています。先程も言った通り、今、この学園は色々おかしなことになっています。エーデルワイスさんのいじめが無くならないこともそうですが、教師陣が一切の興味を示さないこともそうです」


「興味を示さない?」


「ええ、まさに言葉通り。彼らはいじめがあることに対して興味を持っていません。見たまま個々の成績や能力で判断しています。ある意味では公平と言えるでしょう、しかし…」


「本来の教師の姿としてはあるまじき、だね」


「ええ、そうです。……まぁ、こんな状態ですから、学園内に魔女が入り込んでいたとしても気づかなかった、とも言えますね」


唐突に、至極当然の流れかのように単語が飛び出して、エラは思わず肩が跳ねる程驚いた。

…何当たり前のようにとんでもない事を口にしてくれてるの!?誰かに聞かれたらどうするのよ…!?


やっぱり、彼も、この教育実習生もまた敵側、ということだろうか。


「ああ、これは失敬。驚かせるつもりはありませんでした。ですが、何かと切っては切れない部分ですし、大目に見てください」


飄々としてそう言ったローレンにエラは恐ろしさを感じた。だってこれでは彼がいつ言葉を滑らすかわかったものじゃない。心臓に悪すぎる。

無意識にエラはイオニコフの服を握る手に力が入る。クンッと服が伸びるのを感じたイオニコフはそれがエラによるものだと瞬時に理解し、そしてそれが不安や恐怖といったマイナスの感情からの仕草だということも理解した。それ故に、エラを不安にさせる元凶に睨みを効かせる。


「ローレン、口には気をつけるんだ。君の失言でエラの身に何かあれば、ボクは一切の手加減をしないし、許さないよ」


英雄に睨みを効かされて、さすがのローレンも怯む素振りを見せる。冷や汗も流れたようで「誤解です。敵対するつもりはありませんから、落ち着いてください」と必死にそう口にした。


「私はこの秋からですからね、学園に来たのは。それ故かこの学園の異常性には気づいたくらいです。先日の夏休みの段階では黙認することに疑問はありましたが、まぁ、この状態を見てしまえば、黙認することが適切だったと言わざるを得ません。現状ではもう彼の者に意識を奪われることは無いのでしょう?であれば尚更、でしょう。そこは同意します。流石に害がないと思しき人物を無闇に危険に晒す必要はないでしょう」


「当然じゃないか。今この状態では、そんなことを報告してしまえば身の危険が及ぶだけだからね。しかし…教師も、となるといよいよ精神論だけの話じゃないね」


だから魔女の魔力の影響は無いのかって聞いたじゃない。そりゃ、認めたくないけど。とエラは心の中で呟いた。


「今、正体がバレたら何をされるかわかったものじゃない…。彼らに正常な判断は出来ないだろうし」


イオニコフが考え込む横で、エラは彼の手を握りながらその手に少し力を入れる。強く握る。そうすればイオニコフもより強く握り返してくれるから不思議と心が落ち着く。こうしているといかに自分にとって彼の存在が大きくなっているかが良く判る。


「あの」


少し冷静になってエラはふたりの顔を見合わせながら、


「つまり、教師がいじめに興味を示さないから、私へのいじめが無くならないってことですか?でもそれと、みんなが私をいじめ続けることが、どう関係してると言うのですか?」


と、訊ねた。これにローレンが「具体的に言えば、原因となる部分が同じだということでしょう」と答えた。

彼の教育実習生は精神論云々と言うより、この学園に巣食う何かが影響していると考えているらしい。その何かが魔女の影響なのかははっきりしないが、十中八九そうじゃないかと思う。しかしこんな設定、時ノクにはなかったはずだけれど…。


…ああ、もう訳が分からなくなってきたわ!!!

こんな設定、ゲームの何処にも描かれていなかった。もちろん、そもそもは灰かぶりが主人公の引き立て役でしかなかったのだから、どうしていじめられるのだとかいじめが無くなる無くならないとか些細な設定でしかなかったことだろう。往々にして主人公以外の取り巻きや周囲の事は用が無くなれば語られなくなっていくもの。その過程で埋もれていった設定があってもおかしくはないのだ。

これも、そうして埋もれていった設定のひとつだったのかもしれない。


…アイザック、アイザックはどこよ!!!?緊急会議を開きたい!!!!

最早、理解が追いつかなくなってきたエラは自分よりも詳しく覚えていて何度も作戦会議を行ってきたアイザックの存在を求める。結局、最も事情をよく知るという点において、彼の右に出るものはいないのだ。

エラは無意識ではあったけれど、思考がアイザックと話したい、にシフトしたからか、小さな仕草だったけれどそれは彼女がこの場を離れたがっていると解釈するに差し支えないものが見て取れたローレンとイオニコフは一旦、話を切り上げることにした。


「ひとまず、安心してください。少なくとも私は敵じゃありません。この状況に置いても放置するつもりはありませんので。ただ、まぁ、とりあえず、あなた方はせっかくの学園祭を楽しんできてください」


と、ローレンが言う。

敵じゃない、とか言われてもエラとしては半信半疑でしかなかったが、その彼が、


「大丈夫ですよ。この学園にはまだ、あなたを裏切るような真似はしたくないと奔走している教師の方もいらっしゃいますから」


そう言いながら視線をイオニコフに向ける。

あなた、とはつまりイオニコフの事なのだろうとは理解した。等の本人はそれが自分の事だと理解した風には見えなかったけれど。





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