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転生先は灰かぶり  作者: 紗吽猫
イベント〜学園祭〜
155/166

第十九夜 ②ー1



翌日。学園祭二日目。

昨日は学園祭を楽しんだとは言い難い様だったことを若干の後悔をしていたエラは、今日をどうするか考えあぐねていた。


結局、エラがいじめ続けられることの確たる理由は判らずじまいで、それはつまり出口のない迷宮に一人で立たされているようなものだった。そんな状況で楽しめる気もせず、ただ寮の部屋でぼーっとしている。


…やっぱりシナリオの強制力?だから私が何をしてもいじめが無くならない?でもイオニコフやリチア達の行動は確実に変わってきているのよね。

明らかに変わったところと、未だに変わらないところがある。一体それは何故だろうか。何の差でここまで違いが出てくるのだろう。


エラは自分の手を握ったり開いたりしてまじまじと眺める。


「……」


イオニコフが気づいていたかは判らない。だが、エミーユなら気づくだろうか。というか気づいてない方が不思議なくらいなのだが、こと現在において何も言われていないということはまさかのそういうことなのか。

エラは自分の手のひらの上に怪しく光る小さな球体を作り出し、それは黒と紫が入り交じる不気味な球体であったが、ほんの少し炎のような揺らめきがある球体をエラは握り潰す。


魔女の魔力は完全には消えていない。


エミーユはエラの魔力の色が灰色だと言っていた。それは出会った時も、魔女が浄化された後も変わらない。


…彼には灰色に見えたのね。


でも正確には灰色ではない。少なくともエラの目に見える自分の魔力の色は灰色などではなかった。


黒と紫、ふたつの魔力が混ざっている。今までは自分の魔力なんて判らなかったし感じることもなかったが、この夏の一件以降、エラには変化があった。それが「自分の魔力を感じ目視できること」であるのだが、このこと自体はまだ誰にも話していない。話していい気がしなかったのも大きい。なんだって言っても先日の模擬試験前の特訓時にイドラに言われた、無詠唱で魔法が使えることに対する危惧、が不安の尾を引いている。そりゃああの彼にそんな警戒されたら嫌でもこっちも警戒するわよね。


それにしてもアイザックもイオニコフもいじめの原因は別にあると言っていたけど、彼らはこの事実を知らないから、ああ言ったのだろうと受け止めている。きっと、この事実を知ればまた違う見解を述べるだろう。


エラの中にはふたつの魔力が存在する。ひとつはエラ自身の闇属性の魔力。そしてもうひとつが原初の魔女の闇属性の魔力。今も尚、だ。


「今のリチアでは浄化しきれなかった、ということよね」


原作の最終イベントではリチアの聖なる力は完全に覚醒していた。それでも倒しきれなくてイオニコフの力を借りて、ようやく魔女と化したエラ=エーデルワイスを倒せたのだ。けれど今のリチアは覚醒しきっていない。夏の段階では尚更だろう。


…おそらくリチアは覚醒に必要なイベントをこなしてこなかった。そういうことでしょうね。

覚醒に必要なイベントをこなせていなかったのなら完全に浄化出来なかったことも納得がいく。エミーユでも気づかないくらいの残り香だけど、確実に魔女の魔力は残っている。でもいくらエラが関わなかったとはいえそんなにイベントをこなせなかったのだろうか?だってキースと一緒にいたじゃない。間違いなくキースルートに…。


…いや、だからこそイベントをこなせなかったのではないかと思考が過ぎる。だって魔女を打ち倒すシナリオはイオニコフルートだから。自らそのルートを奪っておいて、リチアが聖女の力を覚醒する機会を奪っておいて、一体全体何を抜かしてるんだ?と自問自答する。

それに対して、しまった、と思ったと同時にだから私はまだ生きているんじゃないかとも思えた。もし完全覚醒した状態のリチアに魔女の状態で討たれていたらどうなっていたんだろう。


「はぁ……」


エラは声に出してため息をつき、ベッドに寝転んだ。



夏のあの時はほんとに浄化されたと思ってたんだけどな。



ゴロンと寝転んだエラはそんなことを思った。


考えれば考えるほどに憂鬱になる。そんなエラの耳にコンパクトケースから鳴る着信音が飛び込んできた。

慌てて起き上がって机の上のコンパクトケースを手に取って応答すると相手はアイザックだった。


『よお』


「あらアイザック。どうかしたの?貴方今日も店番じゃなかったかしら」


『おお、そうだぞ。めんどくせーし代わってくんね?』


「…切るわよ」


『いや待て待て冗談だっつーの。つーかそうじゃなくてだなぁ。なぁお前今どこにいる?』


「え、寮の部屋だけど」


『やっぱりか』


「何?何が言いたいわけ?」


『ああ、お前とりあえず出て来いよ。学祭に顔出せよ』


「え、えー?だって行っても楽しくないじゃないのよ。今日もみんな忙しいでしょう?」


『英雄がいるだろ。あいつはフリーだぞ。つーか昨日のうちに約束しとけよな。お前ら結構良い感じなんじゃねーの?』


終始ぶっきらぼうに話すアイザックから良い感じなんじゃないかと言われたエラは一瞬吹き出しそうになってコンパクトケースを落としそうになる。


「な、何言ってるのよアイザック?!」


思わず画面越しに声をひっくり返したエラにアイザックは相変わらずのぶっきらぼうな声で「何慌ててんだ?」と聞き返した。絶対にこちらの反応を楽しんでるなと思う彼の言動に、軽く腹を立てつつも熱くなった顔をどうにか冷まそうとエラはパタパタと手で扇ぐ。


「も、もーーっ!!!それで?あなたの用は何なのよアイザック。本気でからかうためだけに通話してきてる訳じゃないでしょうね?」


『んなわけないだろ。俺だってそこまで暇じゃねーよ。とにかくこっち来いよ。来たらわかるから』



☆☆☆☆



アイザックに呼び出されたエラは渋々、でもどこか期待する気持ちで学園に向かい門を目指した。彼が言うには校門に行けばわかる、らしい。


「一体何なのかしら…」


呟きながらエラが校門を越えるとそこにはアイザックではなく、漆黒の髪が美しく飛び抜けた顔面偏差値を持つ美男子、イオニコフが立っていた。


「やぁ、エラ」


「え?!イオ様!?ど、どうしてここに!?」


言ってからエラはすぐに気づいた。これはアイザックの仕業だと。


「ふふ。彼を怒らないでやってよ」


「?どういうことですの?」


エラが首を傾げるとイオニコフはクスッと笑いながらエラの手を握り学内を歩き出す。まるで恋人のような自然なその行動にエラは一瞬、理解が追いつかないまま彼の後に続いた。




「ボクが頼んだんだ。エラを呼び出して欲しいってさ」


イオニコフはエラの手を握ったままで校内を歩く。二人寄り添って歩けば当然の事ながら注目の的だった。睨むような悪意を滲ませた刺さるような視線を一身に浴びつつ、エラはイオニコフの隣を歩いている。彼の隣を歩くだけでも悪目立ちするというのに、こうして手まで繋いでいたらさらに注目されて当たり前だ。とかく針のむしろに立たされているようで、全身を串刺しにされているようで、本当に嫌になるどころか逃げ出したくなるくらいの不愉快感、そして感じる恐怖。


「…エラ?」


イオニコフは隣で怯えるように俯き歩くエラに視線を向ける。そしてはたと気づく。彼女に向けられる悪意の視線達に。

それはイオニコフにとっても非常に不愉快でしかないものだ。エラの手をより一層強く握り、彼女の体を自身の方へと引き寄せる。急に引き寄せられたエラが驚いてイオニコフの顔を見上げると、彼はひと目で判るほど怒っているのが見えた。


「あの、イオニコフ様…」


「エラ…大丈夫。ボクがいるからね」


安心させるようにイオニコフはエラの額に唇を落とす。


その瞬間、周囲からは息を飲む音、小さくあげられた悲鳴、どよめき、とあらゆる音がした。誰もが驚いたことだろう。もちろん、エラ自身もである。


「あ、あああの、イオニコフ様!?今何を…」


何をされたかなんて判っていながらエラはそんなことを聞いた。耳まで真っ赤になったエラには最早周りの声も様子もどれも耳に入らなくなっている。そんな彼女の様子にイオニコフは少し満足気だった。が、すぐにエラの顔を自分の胸に埋めるように抱き締めると、周囲の生徒達に冷たく、鋭い視線を向ける。それは怒りを含んだ視線。

イオニコフ程の魔法使いに一睨みされれば、まだ見習いでしかない生徒達は恐怖に戦くしかない。


「百年前の人間があまり干渉するのも良くないかと思ってはっきりさせなかったのが悪かったね」


イオニコフは抱き締めたエラの髪を優しく梳きながら、しかし視線は周囲の生徒達に向ける。鋭く睨むように。


「魔法は守る為の力であり、この学園は大切な人を守る力を学ぶ為の場所だ。神聖な場所であるべきだ。それならばここに集う者たちの精神もまた、相応であらねばならない。だがどうだろうか。今、この場で、神聖な学び舎に立てるほどの精神を持っていると自負出来る者がどれだけいるだろうね?自信があるならば手を挙げてみなよ」


彼は、彼だから出来る牽制を放ったんだろう。だけどもエラからしてみれば「何言ってんだこいつ?」である。そんな精神を説くだけで彼らが意識を変えるのであればこんなに苦労はしていない。やっぱり、というか絶対に魔女の魔力の影響あるって。いっそそうだと思いたい。その方が諦めもつくというものだ。

そんなことをイオニコフの腕の中で考えたエラは改めて周囲に視線を向ける。すると、視界に入ってきたのは思ったよりも睨み利かす生徒達の姿ではなく、どちらかというとバツの悪そうな顔をして視線を逸らす生徒達の姿。

…あら、存外効果あったの?


さすがは英雄イオニコフと言うべき影響力なのだろうか。


そんな、そんな状況で、イオニコフはさらに言葉を続けた。


「生徒がこんな体たらくでは、この学園の今の教師は一体全体何をしているんだろうね?キミは、どう思うんだい、ローレン・J・リード」


そう唐突な問の先には、廊下の角に身を潜めていただろう彼の教育実習生の姿があった。

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