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転生先は灰かぶり  作者: 紗吽猫
イベント〜模擬試験・秋〜
150/166

第十八夜 ①



怒涛のイベントが終わった夏休み最後の日。エラは何事もなく寮の部屋で過ごしていた。いや、言い方を変えると引きこもっているのだ。というのも夏休み最後の日ということは明日から通常授業が始まるということ。必然的に帰省していた生徒達が寮に帰って来ているということでもある。当然、虐めっ子達もだ。

そんな理由からエラは部屋に引きこもって居たかった。だが、そんなエラの頭を悩ませる問題が彼女の頭の中に浮上していた。



それは…。



模擬試験が待っているという事実!!!!


「これは由々しき事態だわ…」


エラは思わず親指の爪を噛む。何が問題かというと模擬試験の結果如何けっかいかんによりシナリオ分岐以外で今後の結末が変わってしまうと言っても過言ではないからだ。


「ここ最近のどたばたですっかり忘れてたわ!かくなる上は…」


エラは机の上に起きっぱなしにしていたコンパクトケースを取って連絡帳を開く。そして出てきた人物に呼び出しを掛けたのだった。







「そりゃな、藁にもすがる気持ちだったんだろうが…」


エラに呼び出された彼は開口一番にこう言った。


「頼る相手を間違えてんぞ」


腕を組み、呆れた顔でそう言ったのはこの世界で最も信頼出来る相手。つり目が印象的でちょっと目付き悪いけど、ついでに言うと口も悪いけどそれでもエラにとっては切っても切れないほど大事な相手。


アイザック・グラスヒール、その人だ。



「模擬試験前の特訓ってのはわかるが、講師を頼む相手間違っとるぞ」


「でも、私よりは間違いなく魔法を使えるでしょう?」


ニコッと笑っておねだりして見せるエラにアイザックはしらーっとした冷めた視線を送った。アイザックの魔法は並のレベルよりは上だが、魔法がからっきし使えないエラに教えられる程でもない。

エラ自身の魔法の状態と言えば魔女の魔力が浄化されてもグレーの色のまま。それはつまり何の属性にも割り振れない。強いて言えば「無属性」とも言える。

しかし、アイザック自身は土属性なので無属性がどういった魔法が得意なのかもわからない。それに…。


…俺じゃ、魔法が使えないやつに教えられることがないんだよな…。


困ったアイザックは頭の後ろをガシガシと掻いた後、盛大なため息をつく。それでも目をキラキラと輝かせるエラを見て彼は苦肉の策を思いついた。




「で、どうしてこうなるわけ?」


場所は旧校舎の校舎前。鬱蒼と生い茂る木々の間にぽっかり空いた広場。

その場所でエラは首を傾げた。と、言うのも今この場にいるのはエラとアイザック、だけでなく、そう、あらゆる魔法の使い手でもある彼の青年、イオニコフ・メルエム=オーデルセン。その人もだった。


「何言ってんだ、これが正しいルートだろ」


ぶっきらぼうに答えたアイザックはエラにじとーっとした視線を送る。

魔法を教えるなら英雄程適任はいないはずだ。


「でも…迷惑じゃないかしら?そりゃ、適任かもしれないけど…」


英雄だからと頼ることには気が引けたエラは最初からイオニコフにお願いをしなかった。誰もが“英雄イオニコフ”と崇め奉り、その実力に媚びる為、その様を学園で過ごす傍ら見てきたエラには魔法の練習がしたいからと彼を当てにするのはそれらの人々と同じ事をしているようで嫌だった。

イオニコフは魔女であるエラを守ると言ってくれた貴重な存在だ。だからこそ頼りすぎたくないし、できれば対等でいたい。


そんなエラに笑顔を向けたのはイオニコフ。


「エラからのお願いならなんでも聞くさ。それに、キミが頼ってくれるのにそれを迷惑だなんて思うわけないじゃないか!」


そう言ってイオニコフはエラの髪を撫でる。それは幸せそうな笑顔。彼が本当に迷惑に思っていないことがよくわかる仕草。エラはそんな彼を見て安心した。

…まぁ、嬉しそうだし…頼んでみてもいいのかしら?


エラは嬉しそうに、にこにこしながらこちらに視線を向けるイオニコフの顔をじっと見たあと、深呼吸してから口を開いた。


「あの、では、ご指導お願い出来ますか?」


上目遣いで覗き込むようにしてお願いしてきたエラを見て、イオニコフは彼女が一人で魔法の練習をしていたときの姿を思い出す。あの時も彼女は一人だった。がむしゃらに練習していた。

あの頃はその姿を眺めているだけだったけれど、今は違う。あの頃、窓から眺めていた彼女がこんなに近くにいる。それが嬉しくてたまらない。

エラの手を両手で握ってイオニコフは満面の笑みで答えた。


「もちろんさ!ボクに任せておくれ!!」


その笑顔は見る者全てを魅了する勢いがあり、突っ立って流れを眺めていただけのアイザックも思わず頬を赤く染めるくらいの威力だった。これを真正面から見ることになったエラは直視出来ずに目を瞑るレベル。頬を紅潮させ、うっとりしたような艶やかな瞳は優しい表情を作り出す。彼が男であることを一瞬だけ忘れそうな絶世の美女っぷりにエラは腰砕けそうになった。だが、こんなところで砕けていたら特訓なんて出来っこない。エラは必死にその瞬間を堪え忍んだのだった。




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