第十六夜 ①ー6
☆
ギーウィの魔法でエラを捜し出したイオニコフの前で彼女は涙を流していた。こちらに気づいた瞬間に逃げ出したのを見てイオニコフはすべてを察してしまった。
彼女が、あの三人を攻撃した。だが、それは故意ではなかったのだろうということも。
咄嗟に捕まえて抱き締めた。腕の中の彼女は明らかに怯え震えていた。それに彼女に纏う不吉な魔力。間違いなくゲームの前に別れた時と違い魔力が変異している。怯える彼女を見ればそれは彼女にとっても想定外の事だったんだと判る。だからもし本当に彼女が生徒達を襲ったのだとしてもこれだけ怯え泣いている彼女を追及する気にはなれなかった。
イオニコフは彼女の不安を取り除くためにあえて彼女の身を案じてみせた。
もちろん、それこそ想定外だったのだろう驚いた顔のエラは口をパクパクさせていた。
…ああ、ほら。彼女は無害だ。故意じゃない。
挫いた足の手当てをしようと彼女をお姫様抱っこで持ち上げ共にギーウィの背中に乗った。驚いて悲鳴をあげ、イオニコフに抱きついてくる彼女は可愛いと思えた。どう見たって今目に前にいる女の子は…。
…可愛い…。
普段、誰をも頼らない彼女に頼られるなんて、嬉しくないはずがなかった。この時感じたのは、優越感、だったと思う。
林間学校の二日目は夜に肝試しをすることになっていた。イオニコフは厳密には生徒ではないことから肝試し自体には参加せず広場で教師の手伝いをすることになっていた。けれど正直に言えばエラと肝試しに参加したかった。
飯盒炊飯でも肝試しの時も教師の手伝いをしていてエラと話すチャンスが掴めなかった。
…確かに今のボクは非生徒だけど扱いが雑すぎやしないかい?
沸々と込み上げる不満を押し殺しながら好き勝手に動き回る生徒達を眺める。どうにも最高峰の魔法学園の生徒である意識が欠けているように見える者が多い。
肝試しも教師によってペアが決まったにも関わらずこっそり入れ替わったりしているのが何組もいてほとほと呆れてしまったくらいだ。
そんな、呆れるくらい穏やかな時間が過ぎるはずだった。だが、肝試しの準備をした森が燃え始めた。
慌てて広場の生徒を確認する。既に何組かが中に入っている。広場に残った生徒の中にエラの姿もリチアの姿も見えなくてイオニコフは慌てて捜し始めた。
それが、エラが森へ入る少し前。広場で合流した時にまた嫌な流れが生まれた。
エラを広場に見つけて心から安堵したイオニコフの耳に入ってきた情報はリチア達がまだ森の中にいるということ、そして火を放ったのは“灰かぶりのエラ”だということ。
…また、何の根拠もないのに…!!!
怒りが込み上げた。一緒にいたという生徒がそれを否定した。だが、集まった中にいたイドラもエラを睨んでいた。つられてエラを見た。それはエラからすれば睨まれたように思える目付きだったことだろう。
誰かの根拠のない叫びは瞬く間に広がり火災の犯人はエラだと誰もが騒ぎ始めた。それでもエラと共にいたというアイザックが盾になろうとしたのだ。イオニコフはその姿を見て咄嗟に自分がそれを出来なかったことを悔やんだ。彼女を根拠のない罪から守りたいなら自分が盾になれば良かった。そんな後悔が胸に渦巻き、イオニコフは拳を強く握った。だが、エラはそこで自分の濡れ衣は自分で晴らすと言い、この森の火災の原因に心当たりがあると話した。
…彼女は一体、何者なんだ?どうして火災の原因を知っているんだ?
そんな疑問が浮かんだ時には彼女はもう森の中へと消えていた。
ここで追いかけなければこの謎は解けない。イオニコフは後を追うように燃え盛る森の中へと姿を消した。