第十五夜 ④
…ダメだわ…一人で考えてもわからない。これは後でアイザックの知恵を借りるとして…。
「あの、エドワルド様、お聞きしたいことがあるのですが」
ふいに声を掛けられたキースは書物に落としていた視線を声のした方に向ける。視線の先にはエラがいる。自然と周りにいた面々も顔を上げてエラを見た。
「どうした?」
「シンディエルク公爵家が没落した後、一家はどうなりましたか?離散したっておっしゃってましたわね?」
質問の糸が見出だせなかったキースは一瞬頭の上にハテナを浮かべたが、それでも彼は質問に答えてくれる。
「ああ…そうだが…」
「詳しく教えてくださいな」
真剣な目でまっすぐに見つめてくるエラにキースも真面目に接する。シンディエルク公爵家に関する書物のひとつの頁をパラパラとめくり、ある頁を開いて机の中央に置いて見せた。エラ達はそれを覗き込むようにして中身を読む。
「…シンディエルク公爵家は離散したあと一度王国騎士団に捕縛されている。その後はシンディエルク公爵には借金を支払わせる義務が発生したので王国騎士団監視の下、平民と同じ立場で暮らすことになったんだ」
キースが本の内容を説明してくれる。本の中には平民時の絵姿が描かれていた。エラはそれを見ても親かもしれないという感情は湧いてこなかった。
「なぁ、ここ、娘二人は嫁に出てったって書いてあるけどよ。捕縛されたのにアリなのか?」
アイザックが本の一節を指差してそう聞いた。これについてはイオニコフが答える。
「構わないさ。基本的に借金は親の責任。子には関係ないものだからね」
イオニコフの言葉にアイザックとエラは思わずお互いの顔を見た。元の世界でも親の借金を子が払わなければいけない場面は多くない。それでも関係無いとは言い切れない場合もある。
時ノクの世界では一切関係ないのだろうか。
「えっと、親が健在だったから子には関係ないということですの?」
「まぁ、基本的にはそうだけど貴族の場合は子供を裕福な家とのパイプ役に結婚させて借金を返済させようとする奴らがいるもんでさ」
苦い顔をしたイオニコフがそう言うとキースが補足するように付け足す。
「例にもれずシンディエルク公爵も娘を売った、と言うことだ。だが表向きはもとより許嫁の元に嫁いだということになっていてそれ以上娘達には注視していなかったんだ。だが…」
淡々と説明していたキースの表情が徐々に暗くなる。それに気づいてエラは首を傾げた。そんなエラの顔色を窺うような視線を向けてくるキースと目が合ってエラはごくりと唾を飲み込む。
アイザック達も次の言葉を待つ。キースは一旦、間を置いて次の言葉を話した。
「…非常に言いにくいことなんだが…本の次のページに書かれている通り…。一夜にしてシンディエルク公爵家は全員殺されているんだ」
「…!?」
キースの言葉に誰もが驚いた。アイザックは咄嗟に開かれた本の頁を送る。次の頁を読んでいくと、そこには確かにシンディエルク公爵家が一家惨殺された時の記事が貼ってあった。しかも嫁いだはずの娘二人もだった。殺されたのはシンディエルク公爵家の者だけ。親戚や娘の嫁ぎ先の家族も殺されることはなく生きている。
「…な、何があったんだよ…犯人は、わかってんのか!?」
エラが青ざめて口元に手を添えて力なく席で項垂れたのを見てアイザックがキースに食いついた。イオニコフがエラを心配して彼女の背中を擦る横でリチアも絶句して声が出せなかった。