第十四夜 ②ー4
…そっか。全部が無駄だった訳じゃない。だって今は彼らが側にいてくれるんだもの。こんな風に集まって対策を立てようとしてくれてる。
一人だったなら魔女化して内部から魔軍を誘導したあかつきには彼らにだって命を狙われた。それだけじゃない。魔女化してしまったらブラッディクイーンに意識を乗っ取られて私の第二の人生も終わっていたはずだ。
エラはイオニコフの手を握り返す。イオニコフは握り返された手を見て目を見開いた。そしてすぐに笑顔になって改めて彼女の手を握る。繋がれた手からぬくもりが伝わった。それは一人ではないという実感にも繋がる。
…一人じゃないからこそ手の打ちようがあるってことよね。
希望が見えた。エラは改めてイオニコフ達に向き直る。
「お願いがあります。…その時が来たら皆さんの力を私に貸してくださいませんか?」
エラの赤い瞳が全員をまっすぐに捉える。イオニコフは視線が絡み合うと微笑んで見せた。
「もちろんさ。エラの頼みとあればいつでも」
そう言ってイオニコフはエラの手を強く握った。それがエラの心の安心させてくれる。
「ま、俺に出来る範囲で言ってくれよな」
アイザックはぶっきらぼうに言いながら腕を首の後ろに回す。冷たいようで彼はいつも味方でいてくれる。彼がいなければ今のこの状況はなかったはずだ。
「私達も協力します!ね?キース」
「ああ。いつでも構わない。準備しておこう」
二人も力強く頷いてくれる。エラは心から安堵したのと同時に改めて頭を切り替えた。その瞳には強い光を宿していた。まだ次のイベントまで時間がある。原作と違って今の私には味方になってくれる人達がいて死亡フラグを持ってくるはずの聖女のリチアも英雄イオニコフも力を貸してくれると言う。こんなにも力強いことはない。
あとはイドラとエミーユも巻き込もうとエラは考えた。避けられないのなら味方は多い方がいい。夏休みが終わって授業が始まるまでにどこかで接触しないといけない。
「…皆さん…ありがとうございます。まだ詳しいことも言えないのに、本当にありがとうございます」
「お礼なんて要らないさ。ボクがキミを守るよ」
「私もです!エラに何か話せないことがあることはわかります。魔王に拾われて魔女に取り憑かれていたんだもの…まだわからないことも多いけど協力します!」
「イオ様…リチア様…」
エラの表情がぱあああ、と明るくなる。
「俺で出来ることであれば協力する。何でも聞いてくれ」
「エドワルド様…」
「ま、詳しいことは俺も調べるさ」
アイザックが手をひらひらさせながらそう言う。彼の持つ記憶は貴重な資料だ。
エラは皆の顔を見渡す。応えるような全員の暖かい視線を受け改めて味方の存在を実感したエラは安堵したような、これまで見せたことがなかったふんわりとした笑顔を浮かべた。
☆
「首尾はどうだい?」
誰かのどこかの寂れた部屋。窓から差し込む日射しがシルエットを形どる。影になってはっきりとした人物像はわからない。判るのはどこかで聞き覚えのある男の声だということ。
「はい!まだ誰にも気づかれてません」
「それはいいことだねぇ」
部屋の扉の前に立つ若い少年が報告するとシルエットの男は嬉しそうにそう答えた。
「まぁ、くれぐれも生徒会長には気づかれないようにするんだよぉ?」
シルエットの男はニヤァ…と不気味な笑みを口元に浮かべてそう言った。