第十四夜 ②ー3
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「さて、話を戻すけど、エラが入学審査を通過出来たのは魔力を封印していたからさ。クリスタル学園は魔力を有する者なら誰でも入学出来る。それがどんな小さな魔法しか使えない様な者でもだ。それに魔力属性には稀にだけど無属性もあるし封印されてる間は無属性認定だったんじゃないかい?」
イオニコフがそう言うとエラがつけ加える。
「確かに私の魔力は封じられていましたし、振り分け属性は無属性でしたわ」
記憶にある限りの設定を思い出す。確かプロフィールではエラの属性は無属性と書かれていた。これが封印によるものだとしたらやはり原作の企画段階ではエラがヒロインだった可能性が高い。わざわざ無属性としていた点がエラが魔女化する伏線だったのかもしれない。それに取り巻きAでありながら唯一明確な立ち絵とプロフィールが設定されていたキャラ。準レギュラー扱いだったと言える。
「あの時はまだ闇属性として開花してなかったはずなので入学自体はパス出来たのだと考えられますし一年生も二年生も属性にこだわった授業はしませんから…私が闇属性を保有していることがバレずに済んだのかもしれません。それに一年時に芽は芽吹きませんでしたわ」
その言葉にイオニコフがピクっと反応する。
「それをボクが芽吹かせてしまったんだね…」
項垂れたように呟いたイオニコフにエラは首を横に振る。
「イオ様が悪いのではありませんわ。実際にイオ様のおかげで私も少し魔法が使えるようになったのですもの。感謝してますわ」
ニコッと笑ってみせる。イオニコフは少しホッとしたようだが、どこかしょんぼりしている。
「…そのようにして徹底的に正体を隠してまで入学させたというのなら、魔王の狙いは学内の混乱、及び反乱というのは可能性が高いな」
顎に手を添えてそう呟くキースにエラはこくんと頷いて見せる。
「だが…今のエーデルワイスは当初の思惑と違う動きをしている。魔王にとっては不測の事態が起きていると言えるな」
キースの言葉にエラも同意した。
…不測の事態…。魔王にとっては私がエラの体に転生してしまった上、正しく記憶を継承しなかったことよね。本当に狙いが魔女化して内部から魔軍を誘導するつもりだったなら、このまま音沙汰ないことに動きを見せるはず。それならタイムリミットは学園祭の後…。ゲーム通りにイベントが起きるなら私が魔女化しなくても強制イベントとして発生するはずだわ。
エラは考えてみれば考えてみるほど既に避けられない状況にあることを実感する。イオニコフやリチア達による死亡フラグを折っていてもエミーユやイドラを味方につけても原作の大きなイベントフラグを折ることは出来ないようだ。そもそも、エラ・エーデルワイス自身の魔王城に関する記憶を継承出来なかった時点で不可避だったのかもしれない。
…そんなの、無理ゲーじゃないのよ!!
エラは最初から詰んでいたことに気がついて悔しさのあまり拳を強く握る。爪が食い込んでいたが構うことはなかった。ここまで死亡フラグを折ってきても意味なんてなかったのか。魔女を浄化までしたのに。
そんな俯いたエラの拳をふわりと温かさが包む。誰かが両手で包み込んだようだ。それに気がついたエラが視線を追うとそこには心配そうに顔を覗き込むイオニコフがいた。
「…エラ?一人で抱え込まないで。ボクも力になるからさ」
ゆっくりとエラの拳を開いて爪が食い込んで赤くなった手のひらを優しく撫でる。それから彼は頭を撫でてくれた。
良く見るとアイザックもリチア達も心配そうにこちらを見ていることに気づく。